テレビで味噌蔵、醤油蔵などを見て、

木造建築の中の木樽では無く、

鉄筋コンクリートの中のステンレス

などを見るとガッカリします。


衛生管理や品質保持の観点からは、

全て機械や数値で管理した方が

生産効率が良いのは明らかなのですが、

「古き良き伝統」だけでは無く、

発酵に必要な菌が

木造の柱に既に付いている、

味噌や醤油が木樽の中で呼吸する、

など意味がありますからね。



そしてそれは洋酒作りでも同じです。


出来たばかりのウィスキーを

見たことがありますか?


ウィスキーは琥珀色のイメージが強いですが、

本来は透明の液体です。


この透明の液体が琥珀色に変わる理由は、

木樽で長期熟成されるからです。


内側を焼いた木樽の香りと色が、

徐々に透明の液体を

琥珀色へと変化させていきます。


これはブランデーなども同じ原理です。


そして、ウィスキーの原酒は

樽の中で呼吸をします。


アルコール分が年に3%ほど蒸発し、

徐々に樽の中の液体の量は減っていきます。


これを「天使の分け前」と呼びます。


天使も酔いたい夜もあるでしょうからね~(笑)


樽の中のウィスキーを

ちょっとずつ飲んでるみたいです。



昔ながらの木樽でなければ、

ウィスキーは呼吸出来ませんし、

琥珀色の液体にもなりません。


ステンレス管理でも、

透明の液体としてのウィスキーは出来ますが、

私たちが求める奥深い味わいの

ウィスキーは完成しません。


そしてこの木樽、なんでも良い訳ではありません。


スコッチにはアメリカンオーク、

ブランデーにはフレンチオークが多く使われます。


木の香りを移しますから、

合う個性があるんですよね。


さらに、スコッチの楽しさは、

熟成させる木樽の個性によって、

味が全く異なること。


同じ銘柄、熟成年数でも、

バーボンを一度熟成させた樽で熟成させたもの、

シェリー酒を一度熟成させた樽で

熟成させたものでは、全く味が異なります。


新しい木樽では深い味わいが出ないので、

一度他のお酒を長期間熟成させ、

その個性を木樽に移してから、

スコッチの原酒を入れ、熟成させるんですよね。



例えば、名スコッチの一つ「グレンモーレンジ」

基本はバーボン樽で

10年から25年熟成させますが、

他にもシェリー樽、ポートワイン樽、

マディラワイン樽などで熟成させたものがあり、

味の個性の違いが楽しめます。


最近は様々な銘柄で特別な樽で

熟成されたシリーズが販売されています。


木樽での熟成年数の違いでも

全く個性が異なりますし、

ウィスキーが木と共に生きているのが分かります。



私が好きな銘柄の一つ、

キャンベルタウンモルトの「スプリングバンク」も、

バーボン樽の10年物と、

シェリー樽の15年物では、

全く別ブランドのような違いがあり、

私は好んでスプリングバンク15年を飲んでいます。



パーフェクトな管理は出来ませんが、

見えない天使の悪戯で、

美味しく熟成していくのは、

味噌や醤油もウィスキーもブランデーも同じ。


科学だけでは天使に勝てないんですよね。



今夜はちょっと変化球のスコッチで、

天使の悪戯に乾杯しませんか。