今回は物理のエネルギーの使いこなし術(その2)です。ちょっと寒(サブ)い題をつけてしまったと後悔していますが、もう引き返せません。それより羽生さんの竜王戦が楽しみです。
さて、前回導入したストックエネルギーとフローエネルギーというものを具体的にお金の動きに置きかえるとどうなるか?という一例を示すため、少し強引ですが、単純な例題を作ってみました。
上の例題では、運動エネルギーと重力による位置エネルギーがストックエネルギー、摩擦のした仕事がフローエネルギーになります。まずは、このストックとフローの違いを体感してもらうために、解く前に口座に置き換えてみましょう。
全てをお金におきかえちゃう
まず設定のおきかえから。以下の口座がピンと来なければ財布などお金を入れておけるところならなんでも大丈夫です。
1.この運動の状況(坂道の形状や転がる物体の質量や初速など)
→Aさんの口座(Aさんは口座が2つしかないという仮定)
2.エネルギー→お金
3.坂の上→移動前→<before>
→お金を動かす前(給料日)
4.坂の下→移動後→<after>
→お金を動かした後(ある日)
次にそれぞれのエネルギーをおきかえます。
1.運動エネルギー(kinetic energy)
→Aさんの家庭用の口座(stock)
2.位置エネルギー(potential energy)
→Aさんの仕事用の口座(stock)
3.力学的エネルギー(mechanical energy)
→Aさんの全資産(2つの口座の合計)
4.摩擦のした仕事→電気代の支出(flow)
すると、力学的エネルギー保存則というのは、「お金を入れたり出したりしなければ、Aさんの口座内でいくらお金を動かしても全資産は変わらない」ことを表しており、問題全体が以下のようにをおきかわります。
Aさんは仕事用の口座と家庭用の口座を持っています。
(1)
Aさんはある給料日に残高をみると、仕事用口座には10,000円、家庭用口座は0円でした。ある日(生活するために)仕事用口座から家庭用口座にお金を移したところ、仕事用口座には4,000円残っていました。
では、家庭用口座にはいくらお金が残っていますか?
(2)
Aさんはある給料日に残高をみると、仕事用口座には10,000円、家庭用口座は0円でした。ある日生活費のために仕事用口座から家庭用口座にお金を移し、電気代を支払って残りのお金を確認したところ、仕事用口座には2,000円、家庭用口座には4,000円しか残っていませんでした。
では、Aさんは電気代としていくら支払いましたか?
口座というのは、同じ人の口座であればやりとりが自由にできます。手数料といったものを無視できると仮定すれば、これが僕の脳内のエネルギー保存則の状況と1番近いです。もし口座だとわかりづらければ、Aさんの2つの財布にしてもなんの問題もないです。
図にするとこんな感じでしょうか?
もはや日常生活で必要なレベルの問題におきかわってしまったことが伝わるでしょうか?ここから金額を求めると以下のようになります。
(1)10000+0=4000+(家庭用口座)より
10000-4000=6000円
(2)(支払い後の資産)-(支払い前の資産)は
(2000+4000)-(10000+0)=-6000円
マイナス6000円→6000円の支出
といった感じで解くのはあまり難しくないはずです。もちろん意味がわかっていればいきなり(支払い前の資産)-(支払い後の資産)で計算しても、支出のお金をx円として解いても、自分の脳がやりたくなるやり方で大丈夫です。
ですが、変化というのは常に(変化前)→(変化後)の順番でおこるので、(変化量)は(変化後)-(変化前)と定義されています。そして、その正負によって支出か収入かを判断できるようにしたほうが、いずれ応用問題になって色々マイナスの量を考えないといけなくなった時に悩まなくて済むかもしれません。正の値の方が理解しやすいですが、まあ一長一短ですね。
物理に戻す
では、一応念のため最後に例題を解いておきます。が、上のお金の流れが理解できるならやるまでもないかもしれません。物理のエネルギー保存則なんて、成立する状況さえ正確に判断できたらこんなもんです。
いかがでしょうか?運動エネルギーと位置エネルギーをためることが(ストック)できるエネルギー、摩擦のした仕事をエネルギーの流れ(フロー)として僕の脳内で動いている様子が伝わりましたか?
ここまで理解できたら、物理のエネルギーは使いこなせたも同然です。ある程度経験のある方なら、力学的エネルギー保存則はすでにこれに近いイメージをもっているかもしれませんね。
あとは物理で出てくる力学、電磁気、熱全ての問題も全くこれと同じようにストックとフローを正確に考えられる状態にすれば良いだけです。ですが、特に電磁気や電気回路が力学的エネルギー保存と同じレベルに到達するのが難しいようですね。
物理である以上この概念は絶対に変わらないのが物理の良いところで、この壁を乗り越えさえすれば、応用問題や難問へ対処する姿勢が安定するはずです。誤解を恐れずはっきり書くと、数学的な前提を理解するよりよっぽど重要です(書いちゃった。。。数学的に理解するのも大事なんですが、つい。。)これくらい単純に捉えられるように数学を利用して作り出したエネルギーや仕事という概念をつかんでから、数学的にちゃんと理解するってのも悪くないんじゃないかなぁ?
そのためにも、次回は前回出てきた5つのストックエネルギーと名付けたもののイメージをまとめておきます。このイメージと保存則の成立する状況(言いかえるなら、どの口座が同じ人の口座になっているか)さえわかればゴールです。
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