家庭科では、生徒たちの自立に役立つ情報を取り入れていきたいと思っています。いずれ家族の元を離れて巣立っていく生徒たち。今回は、一人暮らしの家選びを通して、健康に住まう工夫について考えます。

一人暮らしをしている卒業生に、いつ家を選んだか聞いたところ、「受験当日」と言う人が多くいました。「合格発表の日」ではなく、受験当日。県外に受験した人は、受験を終えたその足で、不動産屋さんに行き、仮契約をして帰ることがよくあるそうです。最近はネットで合格発表を見ることも多く、その後、家を探しに現地に行った時には、いい物件がなくなっている可能性もあります。家選びは計画的に行うことが大切です。

受験時や合格後どちらの時期にしろ、物件には卒業前の大学4年生がまだ住んでいるため、実際に家を見ずに決めることも多いでしょう。住宅情報だけで、理想の物件を選ぶには、想像力と多少の知識が必要です。

学習プリントです。



プリント裏には、家選びのチェック項目や防犯に関する知識、衛生的に住まうための掃除の仕方の新聞記事などを載せました。


資料の一部は、進路室にあった「はじめての一人暮らしガイドブック」を使いました。



板書です。


一人暮らしの家選びを通して、換気や採光の必要性。部屋の快適な湿度、好ましい冷暖房の設定温度。家のメンテナンスや光熱費の倹約について等、電子黒板で動画を交え、様々な視点から話しました。

まずは、1人暮らしの家選びの条件について、ジャムボードに書き出してもらいました。
不動産屋さんの住宅情報には、これらの情報は網羅されていません。知りたいことは、自分で聞くこと。実際に不動産屋さんに行ったら、質問をバンバンしましょう。住宅情報には、プラスの情報しか載っていないと思いましょう。

例えば、建築基準法では、31m以上(7〜8階)の建物にはエレベーターを付けることが義務付けられています。すなわち、6階までの物件にはエレベーターが付いていない可能性もある。
また、物件の周りには街灯があるか。近くの道路や線路事情によっては、騒音が激しいこともあるかもしれません。

想像力を膨らませて、聞きたい情報を入手することが、理想の部屋選びのポイントです。


プリント裏には、家選びの一般的なチェック項目をつけていますので、ぜひ参考にしてください。


次に、賃貸を借りる際の初期費用の話です。

月々の家賃だけで家を借りることができないことを知っていますか?

敷金、礼金、仲介手数料、管理費など。
それぞれの意味を確認しながら、賃貸契約の際の初期費用を計算しました。初期費用は、家賃の5〜7ヶ月。約6万円の物件では30万円〜42万円かかります。加えて、引越し費用に5〜10万円かかります。
家は、気に入らないからと、簡単に住み替えられるものではありません。大学の4年間は、極力、住み替えは避けたいですよね。知識を持った上で想像力を最大限に働かせて、理想の家選びをしましょう

ただでさえかなりかかる一人暮らしの初期費用。家財道具を全部新品で揃えるとさらに高額になります。引越し前にあれこれ揃えてしまわず、生活し始めてから、必要に応じて揃えること。4年間しか使わないことを考えて、リサイクルショップを利用することも1つの手だと思います。大学周辺には、大学生が卒業時に使わなくなった一人暮らし用の家電が多くリサイクルショップに並んでいます。現地で調達すると、引越し代金も抑えられて一石二鳥です。

部屋の選び方は好みでいいし、どこを選ぶのが正解と言うのはありませんが、住居学的視点を持っていると、よりよい選択ができます。

例えば、エアコンの光熱費を考えると、集合住宅では、内側を選ぶとよいと言われますし、長期的視点からの考えても、外に面した部屋より内側の部屋の方が、メンテナンスに関しても優れていると考えられます。

防犯の視点から考えると、1階は避けた方がいいと言われます。一人暮らしをする人は、家選びの段階から、セキュリティにも気を配りましょう。

プリント裏には、防犯に関するチェック項目の資料を載せました。


また、外に面した窓のない台所は換気しにくく、自炊には不向きです。
窓の大きさは重要なので、建築基準法では、居室の窓の大きさは床面積に対して1/7以上と定められています。(教室は1/5以上)
窓のない部屋のことを「行灯部屋」と言います。昼間でも暗く光が入らないのでこう呼ぶのですが、居室でなくても、台所、トイレ、お風呂などでは起こりがちです。水回りは、不衛生になりがちな場所です。1人暮らしに自炊は必須です。台所は、「行灯部屋」になってないか、確認することをお勧めします。

20年以上前の話ですが、大学の住居学の先生が、よく、授業の始めに、「今日の授業を受けると500万円得する」と、おっしゃっていたエピソードを紹介しました。少し大げさな表現ではあると思いますが、まんざら嘘でもない気がします。
家は人生最大の出費です。住んだ後のことをしっかりとシミュレーションしてみましょう。

授業では、簡単な実験をいくつかしました。

まずは防音に関する実験です。
集合住宅では、騒音に対する配慮が必要です。
2階以上に住むことを想定して、階下に伝わる音について考えました。

フローリングそのままと、絨毯を敷いた場合、どのくらい下階に伝わる音が違うのか。

準備したのは、ビー玉とクッションシート、毛足の長い絨毯に見立てたモップ。


一番音を吸収したのは絨毯。ビー玉を落とすと、その音の違いに驚きます。

クッションシートもかなりの効果あり。

部屋にカーペットや絨毯やクッションシートを敷くだけで、下階への音は軽減されることが実感できました。


今、一軒家に住んでいる人は、騒音に対する周りへの配慮を忘れがちなところがあるかもしれません。集合住宅では、階下への床の防音対策だけでなく、深夜のお風呂や洗濯もNGです。気を付けましょう。


次に、勉強に適した環境について考えるために、窓際、中央、廊下側の明るさを照度計で測りました。

勉強に最適な照度は500〜1000ルクスです。

実際に計測してみると、

晴天時は、
窓側4000ルクス 中央500ルクス 廊下側300ルクスでした。

雨天時は、
窓側1200ルクス 中央300ルクス    廊下側300ルクスでした。

結論です。

適度な照度を得るため、部屋には採光が必要ですが、太陽光はかなりの明るさがある。
晴天時、窓側はブラインドを下げるなどの工夫をしないと、目に負担がかかる。また、晴天時であっても、中央、廊下側は意外と暗い。

家庭での学習時は、太陽光がない夜の場合も多いと思います。かなり照度は下がるので、部屋全体の照明だけでなく、手元にも照明するようにしましょう。

また、照明では得られない「紫外線の殺菌効果」や「気分を明るくする心理的効果」についても触れ、「日当たり」は、家選びで重要な要素であることの確認をしました。


最後に、湿度に関する実験です。
今日の湿度はどのくらいでしょうか?
まずは予想してから、実測しました。

春の教室は、想像以上に湿度が低いです。

湿度は、肌感覚では分かりません。

室内の湿度は、健康面や家を長持ちさせるためを考えると、40〜60%が好ましいこと。

教室には、コロナ対策で買ってもらった加湿器やサーキュレーター、温度・湿度計があります。効果的に使って湿度をコントロールしていきましょう。換気や温度、湿度管理をすることは、結露防止にもつながります。カビやダニの発生を防ぎ、健康で快適な生活を送りましょう。
 
通常だと他人事に感じてしまう内容(通風、換気、採光、騒音、メンテナンス、初期費用等)が、一人暮らしの家選びから入ると、自分事として生活に落とし込んで理解しやすくなります。

健康に住まうためには、普段の掃除も大切です。今は親に任せっぱなしであろう水回りの掃除や布団の管理なども、1人暮らしになったら、自分でしないといけません。今のうちから掃除のコツなど、親から教えてもらっておくといいですね。