爪の先まで | 能楽師 片山伸吾のblog『冷吟閑酔』

能楽師 片山伸吾のblog『冷吟閑酔』

生粋の京男の片山伸吾が、時には舞台人として、時にはただのおっさんとして、日々の出来事を気ままに綴っていきます。

今日、実に残念なことがあった。大阪での催しのあと、翌日の稽古のため岡山へ。六分目の腹を満たすために、ホテル近くの炉端焼きの店へ繰り出した。

評判通りそこそこ美味しいものが続き、お店の店員さんや御主人の接客も良く、私的にはかなりの満足度に達していた。

ところがである。最後に注文した物でその満足度が谷底に落ちていく。頼んだのは『鮎の塩焼き』。この季節の鮎は解禁前であるから、本物はなかなか出てこないのは分かっている。ただ本当の評価ができるものと思い、養殖物が出てくることも覚悟の上でオーダーした。

厨房に目をやると、網の上には、他の焼き魚かなと思うような大きな魚が載っていた。嫌な予感。ひょっとしてあれが鮎?明らかに冷凍物のような堅さの身なりだ。やがてその魚は、私の目の前に運ばれてくる。身はぐちゃぐちゃに柔らかく、香りすら失せている。

何でなんだろう?

この言葉しか出てこない。あれだけ丁寧な仕事をしているのに、何でこんなところで手を抜くのだろう?自分以外のお客さんの満足そうな顔を見ても、まず、ほとんど外れのない店だと思う。だからこそ尚更残念でならないのである。これなら例え平均点が低くても、ハズレのない店を選ぶ。折角こだわって頑張ってられるのなら、爪の先まで神経の通ったお店を創ってほしいと思う。

満席にも関わらず、外まで挨拶に来てくれた店主の姿が、逆に痛々しく感じた。