この街の運動会は変わっている。
街中を巡る障害物競走。

「まーぶる様! 私がまーぶる様のために一位を取ってみせますわ!」
頭にハエのヘルメットを被った女性が拳を固めて男に迫る。実際はヘルメットではなく、魔力が形になったものなのだが。
彼女が有名な大悪魔ベルゼビュート家のお嬢様だとは誰も知らない。彼女と契約を交わしたまーぶるという男以外は。

「ああ。まあ、がんばれ」
名前を呼ばれたまーぶるは少し引き気味だ。
少しでも距離を取ろうと体を反らせる。

「ふう。人間というものは面白いね」
ふいに現れた長い銀髪の男。
美しいのは髪だけでなく、肌、顔立ち、立ち姿も凛として見る者を魅了していた。

「リゼット?」
まーぶるがついすっとんきょうな声を出してしまう。

「敬称くらい付けるべきじゃないかね? 人間風情のまーぶる君」
ニヤリと口角を上げたその表情には僅かながら嘲りが見え隠れしている。

「り、リゼットさんは何しに来たんですか?」
女を引き剥がしやがらまーぶるが訊ねる。

「ビジネスだよ。人間界にもうちの商品を使ってる客はいるのでね」
あくまで恭しく品格を保ったままじっとまーぶるたちを見据える。

「はあ。とにかく邪魔だけはしないでくださいよ」

「わかったわかった。せいぜい人間のお遊戯を楽しんでくれ」
払うように手を動かし踵を返すりリゼット。
まるで自分はこんな連中とは違うと言わんばかりだった。

「アンタに言われなくてもまーぶる様と楽しむわよ!」
去って行くリゼットの背中に女はあっかんべーをした。

「お嬢はアイツの前だと普段の品格を失うね」

「まーぶる様!」
女がさらに何かを言おうとした所でスタートの号砲。

先頭を駆けるのは下半身馬男のケンタウルス。通称けんたろう。
「はははっ! 我に敵う者無し!」
軽やかに蹄の音を鳴らす。
直線をズイズイと後続を引き離していく。
が、上手く交差点の角を曲がれなかった。
直角に曲がるのには不利なようだ。
あわれ、けんたろうはコースアウトして何処かに消えた。

今度は真っ白な猫が先頭へと踊り出す。
「にゃにゃにゃーん。私が一番だにゃーん」
人語を喋る猫。
尻尾は二つ。
猫又である。
商店街に入ると早速最初のお題。
借り物競走である。
お題の物を商店街のお店で借りるのである。
「えーと、私は魚だにゃ」
鮮魚店へと急ぐ猫又。
そこへ一人の少女が小鳥を追って現れる。
「ピッピちゃん! 待って!」
どうやら飼ってるインコが逃げてしまったらしい。
「キュピーン! 楽しそうだにゃ」
猫としての本能なのだろう。
猫又は小鳥を追い掛け始めた。
猫又脱落。

その後はショッピングセンターの駐車場でカースタントに挑戦したり、河川敷で火起こししてバーベキューしたり、消火訓練、カラオケ大会、神社参拝、スカイダイビング、熱湯風呂と次々にこなす参加者。

そんなこんながあっていよいよ最後の直線に差し掛かる。
残ったのは三名。
ベルゼビュート家のお嬢様、背中に羽の生えた男、そしてただの一般人。
「負けませんわ!」
「オレが勝つ!」
「············」
三者三様に最後の力を振り絞る。
その中で人間だけはもう力を使い果たしたように苦しそうな表情をしていた。

ラストスパートだと羽男が翼をはためかせる。
すると、羽ばたいた事で起こった風に飛ばされた一般人が真っ先にゴールテープを切ってしまった。
あまりに、あっさり、あっけなく、勝負は着いた。

「え? 嘘だろ?」
「そんな」
「????」
全員がポカンとしている。
観客も選手も何が起こったのがすぐには理解できなかった。

数秒の沈黙。
そして歓声。
こうして人外だらけの運動会は幕を閉じた。

「まーぶる様。一位取れませんでした」
落ち込むベルゼビュートのお嬢様。
そんな彼女の頭をまーぶるは優しく撫でた。
「頑張ったから良いんじゃないの」
「まーぶる様······」
「品性の欠片も無いくらいの形相だったもんな」
「ま、まーぶる様あ!!!!」

彼女の顔が赤かったのは、鮮やかな夕日のせいだろうか。
それとも············?

「やはりイベント時はサイフのヒモが緩むな」
祭りの後、リゼット氏は一人ごちるのだった。

終わり


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という事で
あむるむぅんさんの企画
「○○○だらけの運動会」

私からは
オリキャラの小説を
書かせていただきました。

作中のハエの悪魔少女
フランキスカ·ベルゼブブ=ベルゼビュートは
ブロ友のありすさんとの
コラボで色々やらせてもらったキャラです

また、ありすさんのオリキャラのリゼット氏に出演していただきました。
(ありすさんのブログでコラボマンガ描いていただいた関係で)
この場を借りて謝意を。
ありがとうございました。

「魔女と指喰いの森」は夜アップします