この世界には伝説の9つの塔がある。
伝説では9つの塔には人ならざる者が封印されたという。
二千年前、悪魔と呼ばれるモンスターを率い、人間と敵対した人ならざる者。
いつしか、彼らは復活し、再び人間に仇なすであろうと、、、。
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Towers of nine tail
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「ようやく、ようやくたどり着いた」
「長かった旅もこれで終わるのですね」
ロングソードを背負った戦士風の男と、魔導師のようなローブを身に纏った女。
長い塔の探索の後たどり着いた、最上階と思われる部屋の前に二人は立っていた。
扉の前で深呼吸する。
心を整えるように、ゆっくり、深く。
「9つ目の塔も最後のフロアを残すのみだ」
「平和な世界が実現するのね」
「ああ」
男が扉に手をかける。
重々しい音と共に扉が開かれた。
「「............」」
最後の部屋は六畳一間のフローリング。
その真ん中には大きな水溜まりがあるだけで他には何もなかった。
「ここに最後のナインテイルがいるんだよな?」
「ここが伝説の塔だって聞いたけど?」
「だよな」
二人は顔を見合わせた。
お互いのきょとんとした顔が緊張感を奪ってしまったのか、少しの間をおいて表情が緩んでしまう。
「ははははは。とうとうここまで来たか。他の連中は倒されたようだが、このナインテイル最強のワイザーナには勝てまい」
水溜まりから声がした。
「どこだ!?」
「姿を現しなさい!」
二人はキョロキョロと辺りを見回す。
しかし、部屋には誰かが隠れるスペースなどはなかった。
「くっそー、どこかに隠しカメラとかあるんじゃねーか?」
「どっきりしかけて全国放送するつもりね」
「いいか? 俺たちはどんなピンチも一緒に乗り越えてきた」
「ええ。プロポーズならこの旅が終わった後にして」
「そういうジョークは嫌いじゃないぜ」
「......お前ら、無視すんな」
水溜まりが震えた。
水面に波紋が広がる。
「だってさ、みんな『オレが最強』とか言うんだぜ?」
「そういうの全員倒してきたのよ?」
二人はまだ声の正体を探しキョロキョロしている。
部屋には家具も何もないというのに。
「........................」
「我は、我こそは、最強の」
ずずず......。
水溜まりが蠢き人の形になっていく。
「気持ち悪いわね」
「裸かよ」
「お前らやる気あるのか?」
水溜まりの人は震えている。
「だってさ、最後の敵がスライムだろ?」
短剣を構えるものの緊張感は感じられない。
「液状ではある。が、雑魚だと思われるのは心外だな」
「えーい」
女が杖を振ると炎の玉がワイザーナに飛ぶ。
ワイザーナは右腕で軽く払ったが、手首から先の部分は消し飛んでしまった。
「ふふふ。やはり炎には弱いよう、です、ね?」
「こ、呼吸が、苦しい」
男は手にしていた短剣を手放し、突っ伏してしまう。
「ははは。何も対策をしてないとでも? 我の身体を焼けば毒ガスが発生する。一緒に死ぬと言うなら止めはせんぞ?」
みるみる右手が再生していく。
「但し、貴様らの方が先にくたばるだろうがな」
「ふざけた野郎だな。狭い部屋に閉じ籠る暇人のくせに」
「苦しそうな顔でよくそんなセリフ吐けるな。ある意味尊敬するよ。暇人てのは認める」
「炎が駄目ならこれならどうかしら?」
今度は氷の礫が飛ぶ。
ワイザーナの身体が凍り始める。
「ははははは。凍らせたら、か。浅はかな」
「凍った所を砕く!」
男は短剣を振るい固まったワイザーナに攻撃する。
ワイザーナの身体はあっという間に細切れになってしまった。
「あっけなかったな」
「ええ。これでプロポーズできるわね」
「ははははは。この程度で我を倒したとでも?」
粉々になったワイザーナの欠片がカタカタと転がり一ヶ所に集まる。
「まさか」
「嘘だろ」
「炎、氷、雷さえも我を倒す事はできぬ。全ての攻撃は無意味! 我こそ最強のナインテイル、ワイザーナ!」
再び人の形を成すと、ゆっくりと男に近づく。
「な、何を!」
「取り込むのさ。ゆっくりと我の体内で融けてゆくが良い」
ワイザーナの右手が男の頭を掴む。
と、そこからワイザーナの液状の身体がどろどろと男の全身を包む。
「何て事!?」
「このままゆっくりこの男が死ぬ様を見るが良い」
男の腹の辺りからワイザーナの顔が浮かぶ。
「水も滴る良い男とはこの事なのね」
女はうっとりとした顔で男を見ていた。
「いや、男死ぬぞ?」
ワイザーナは女の頭の中身の心配を始めた。
液状の物に包まれて苦しむ男、その男の腹から液状の顔が浮かび、それを見る女はうっとりしている。
それも、六畳の狭い部屋で。
「液状、ならば!」
「!?」
ワイザーナは何か感じたと思うや否や、力が抜けていく。
「何をしたー!!!!」
ワイザーナが男から離れ、女に襲いかかろうとする。
しかし、女に触れた瞬間だった。
「こ、これは......」
「ふふふ。吸水シート。多い日でも安心設計よ。人類の進歩を舐めないで欲しいわね」
「渇く、我の身体が、渇いていく......」
水分が抜けて固く干からびたワイザーナの残骸だけが最後に残った。
「水を与えたら復活しそうだな」
男は再び短剣を握り、ワイザーナの残骸を睨む。
どうしたものかと二人が考えていると、
「あらあら、ワイザーナやられちゃったね」
「自分の弱さを知らぬ者はこうなる運命なのだ」
「そうね、兄さん」
何者かの会話が二人の頭上から降ってきた。
「邪魔な天井は壊してしまおうか」
「私がやるわ」
僅かに間が空いて、天井が土色に変わり轟音とともに崩れ出す。
二人は慌てて部屋から逃げ出した。
階段を駆け降り音が収まるのを待つ。
「何が起こったんだ?」
そろりと崩れたフロアを下から覗く。
一組の男女が干からびたワイザーナを見下ろしていた。
「ヤト、チサク、そうかお前たちなら......」
ヤト、チサク、すでに倒したはずのナインテイルのメンバー。
彼らは何故甦ったのか、どうしてここに来たのか。
二人には理解できなかった。
〈つづく〉
★★★
はい。
前のシリーズ終わってないのに書いてしまいた。
(;゚∇゚)
「キマグレにサヨナラのコーヒーを」シリーズも完結させるつもりですよー。
今回は前、中、後編になる予定です。
なぜか前編はギャグが入り過ぎたなぁ。
シリアス路線目指してたはずなのに😅