この世界には伝説の9つの塔がある。

伝説では9つの塔には人ならざる者が封印されたという。

二千年前、悪魔と呼ばれるモンスターを率い、人間と敵対した人ならざる者。

いつしか、彼らは復活し、再び人間に仇なすであろうと、、、。

◆◆◆


Towers of nine tail

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「ようやく、ようやくたどり着いた」

「長かった旅もこれで終わるのですね」

ロングソードを背負った戦士風の男と、魔導師のようなローブを身に纏った女。

長い塔の探索の後たどり着いた、最上階と思われる部屋の前に二人は立っていた。

扉の前で深呼吸する。
心を整えるように、ゆっくり、深く。

「9つ目の塔も最後のフロアを残すのみだ」

「平和な世界が実現するのね」

「ああ」

男が扉に手をかける。
重々しい音と共に扉が開かれた。

「「............」」

最後の部屋は六畳一間のフローリング。
その真ん中には大きな水溜まりがあるだけで他には何もなかった。

「ここに最後のナインテイルがいるんだよな?」

「ここが伝説の塔だって聞いたけど?」

「だよな」

二人は顔を見合わせた。
お互いのきょとんとした顔が緊張感を奪ってしまったのか、少しの間をおいて表情が緩んでしまう。

「ははははは。とうとうここまで来たか。他の連中は倒されたようだが、このナインテイル最強のワイザーナには勝てまい」

水溜まりから声がした。

「どこだ!?」

「姿を現しなさい!」

二人はキョロキョロと辺りを見回す。
しかし、部屋には誰かが隠れるスペースなどはなかった。

「くっそー、どこかに隠しカメラとかあるんじゃねーか?」

「どっきりしかけて全国放送するつもりね」

「いいか? 俺たちはどんなピンチも一緒に乗り越えてきた」

「ええ。プロポーズならこの旅が終わった後にして」

「そういうジョークは嫌いじゃないぜ」

「......お前ら、無視すんな」
水溜まりが震えた。
水面に波紋が広がる。

「だってさ、みんな『オレが最強』とか言うんだぜ?」

「そういうの全員倒してきたのよ?」

二人はまだ声の正体を探しキョロキョロしている。
部屋には家具も何もないというのに。

「........................」

「我は、我こそは、最強の」

ずずず......。
水溜まりが蠢き人の形になっていく。

「気持ち悪いわね」

「裸かよ」

「お前らやる気あるのか?」
水溜まりの人は震えている。

「だってさ、最後の敵がスライムだろ?」
短剣を構えるものの緊張感は感じられない。

「液状ではある。が、雑魚だと思われるのは心外だな」

「えーい」

女が杖を振ると炎の玉がワイザーナに飛ぶ。
ワイザーナは右腕で軽く払ったが、手首から先の部分は消し飛んでしまった。

「ふふふ。やはり炎には弱いよう、です、ね?」

「こ、呼吸が、苦しい」
男は手にしていた短剣を手放し、突っ伏してしまう。

「ははは。何も対策をしてないとでも? 我の身体を焼けば毒ガスが発生する。一緒に死ぬと言うなら止めはせんぞ?」
みるみる右手が再生していく。
「但し、貴様らの方が先にくたばるだろうがな」

「ふざけた野郎だな。狭い部屋に閉じ籠る暇人のくせに」

「苦しそうな顔でよくそんなセリフ吐けるな。ある意味尊敬するよ。暇人てのは認める」

「炎が駄目ならこれならどうかしら?」
今度は氷の礫が飛ぶ。
ワイザーナの身体が凍り始める。

「ははははは。凍らせたら、か。浅はかな」

「凍った所を砕く!」
男は短剣を振るい固まったワイザーナに攻撃する。
ワイザーナの身体はあっという間に細切れになってしまった。

「あっけなかったな」

「ええ。これでプロポーズできるわね」

「ははははは。この程度で我を倒したとでも?」
粉々になったワイザーナの欠片がカタカタと転がり一ヶ所に集まる。

「まさか」
「嘘だろ」

「炎、氷、雷さえも我を倒す事はできぬ。全ての攻撃は無意味! 我こそ最強のナインテイル、ワイザーナ!」
再び人の形を成すと、ゆっくりと男に近づく。

「な、何を!」

「取り込むのさ。ゆっくりと我の体内で融けてゆくが良い」
ワイザーナの右手が男の頭を掴む。
と、そこからワイザーナの液状の身体がどろどろと男の全身を包む。

「何て事!?」

「このままゆっくりこの男が死ぬ様を見るが良い」
男の腹の辺りからワイザーナの顔が浮かぶ。

「水も滴る良い男とはこの事なのね」
女はうっとりとした顔で男を見ていた。

「いや、男死ぬぞ?」
ワイザーナは女の頭の中身の心配を始めた。

液状の物に包まれて苦しむ男、その男の腹から液状の顔が浮かび、それを見る女はうっとりしている。

それも、六畳の狭い部屋で。

「液状、ならば!」

「!?」

ワイザーナは何か感じたと思うや否や、力が抜けていく。

「何をしたー!!!!」

ワイザーナが男から離れ、女に襲いかかろうとする。
しかし、女に触れた瞬間だった。

「こ、これは......」

「ふふふ。吸水シート。多い日でも安心設計よ。人類の進歩を舐めないで欲しいわね」

「渇く、我の身体が、渇いていく......」

水分が抜けて固く干からびたワイザーナの残骸だけが最後に残った。

「水を与えたら復活しそうだな」
男は再び短剣を握り、ワイザーナの残骸を睨む。

どうしたものかと二人が考えていると、

「あらあら、ワイザーナやられちゃったね」

「自分の弱さを知らぬ者はこうなる運命なのだ」

「そうね、兄さん」

何者かの会話が二人の頭上から降ってきた。

「邪魔な天井は壊してしまおうか」

「私がやるわ」

僅かに間が空いて、天井が土色に変わり轟音とともに崩れ出す。
二人は慌てて部屋から逃げ出した。
階段を駆け降り音が収まるのを待つ。

「何が起こったんだ?」

そろりと崩れたフロアを下から覗く。
一組の男女が干からびたワイザーナを見下ろしていた。

「ヤト、チサク、そうかお前たちなら......」

ヤト、チサク、すでに倒したはずのナインテイルのメンバー。
彼らは何故甦ったのか、どうしてここに来たのか。
二人には理解できなかった。

〈つづく〉
















★★★


はい。

前のシリーズ終わってないのに書いてしまいた。
(;゚∇゚)

「キマグレにサヨナラのコーヒーを」シリーズも完結させるつもりですよー。

今回は前、中、後編になる予定です。

なぜか前編はギャグが入り過ぎたなぁ。
シリアス路線目指してたはずなのに😅