私達日本人にとって、屋内は土禁と決まっている。手塚眞監督版のブラック・ジャック邸の玄関には、たたき(靴脱ぎスペース)もある。

手塚眞監督「ブラック・ジャック」
KARTE:06 ある教師と生徒
絵コンテ 森田浩光

和登「出ておいで、写楽!ここにいることはわかってるんだ!」
和登の足元のグレーのスペースが、たたきである。

ところが、である。

和登「逃げても無駄だと言ってるだろ!」
和登と写楽は居間まで土足で上がりこんでいる。

ブラック・ジャック邸では、外来者は土足可なのだろうか。
そもそもブラック・ジャック邸の玄関には、靴箱もスリッパの用意もないようだし…。

というわけで、私はいつの間にか、ブラック・ジャック邸での登場人物たちの足元に、目が向くようになってしまった。


手っ取り早く結論をいうと、手塚眞監督版ブラック・ジャック邸は土禁である。どうやら。

手塚眞監督「ブラック・ジャック」
KARTE:18 メールの友情
絵コンテ 桑原智

トム「ジュン、僕は光を失ってから、ずっと孤独だった。だが、やっと君という友達と出会うことができた」
BJ、ピノコ、トム、ジュンの4人とも、また、この瞬間には映っていないジュンの両親も、みんなスリッパである。
芸が細かいことに、外来者はみな茶色のスリッパ、一方、BJは青、ピノコはピンク、のマイスリッパである。
(この回、トムとジュンに向けられるBJの視線など、細かい描写がちょっとステキである)

KARTE:6のような間違いは、描写に混乱が生じて起こるのだろう。

例えば、

手塚眞監督「ブラック・ジャック」
KARTE:05 六等星の男
絵コンテ 西田正義

ピノコ「買って買って、買って欲しいの!」
居間でのほほえましい?エピソードだが、ピノコは靴を履いている。スリッパでも表現上、問題ないはずなので、やっぱり手違いなのだろう。
(西田正義は、作画監督、演出、オープニングアニメーション、などなど何でもこなすマルチスーパースタッフのはずやのに)


さて、手塚眞監督版ブラック・ジャック邸の屋内=土禁と結論づけたところで、次の疑問がでる。

テラスはどうなのだろうか。

手塚眞監督「ブラック・ジャック」
KARTE:18 メールの友情
絵コンテ 桑原智

ピノコ「(携帯メールを)見ちゃだめ!」
海側の円錐屋根テラスは土禁である。居間直結であるし、手摺りで囲われ、構造上、庭に出られるようになっていないので間違いあるまい。

ならば陸側のテラスは、玄関の外なので靴か、というと、

手塚眞監督「ブラック・ジャック」
KARTE:03 ひったくり犬
絵コンテ 森田浩光

BJ「なんて無精な犬だ」
この描写では、陸側のテラスに2人はスリッパで出てきている。

一方で、

BJ「さぁ、元のところへ返すんだ。返したら、すぐ、このうちから出て行くんだ」
庭(といってよいのか)に出る時にはちゃんと靴に履き替えている。

陸側テラスは緩衝地帯なのだろうか。

なお、余談だが、

ピノコ「先生のバカバカバカ!先生のせいでラルゴ死んじゃったのよぉ」
地震の直後、2人は靴のまま居間に駆け込んでいる。これは、一般的な「地震の時の注意」に従っているので、問題にはならない。

…………
さて、ここまで、手塚眞監督版ブラック・ジャック邸の土禁・土足問題を見てきたが、私が、いちいち「手塚眞監督版」と断っているのに気付いただろうか。

では、「出崎統監督版」ブラック・ジャック邸はどうなのだろう。

結論をいうと、屋内=土足制である。


出崎統監督「ブラック・ジャック」劇場版
絵コンテ 出崎統

ピノコ「ちょわあーッ」
客の画商2人だけでなく、BJとピノコも靴を履いている。

室内で履いていた靴そのままに、BJは仕事に行っているし、そもそも、屋内の廊下からテラスまでが直結しており、たたきがないのである。

ピノコ「世の中オリンピックで熱くなってゆってゆうのにぃ」
ピノコ「先生?」


ブラック・ジャック邸はどこにある?で、私は「出崎統監督版のブラック・ジャック邸は日本にあるのかどうかさえわからない」と書いたが、このような細かい描写から、ますますその思いが強くなるのである。


ま、出崎統監督「ブラック・ジャック」OVA KARTE6 「雪の夜ばなし、恋姫」で、日本円札の入った、どうやら郵便小包らしきものが届いているので、まあ、日本なんだろうけど。