名言

「ブラック・ジャック」には数々の名言があるが、それは手塚治虫によるものだと思っていた。

手塚眞版「ブラック・ジャック」では、各話のサブタイトルとともに原作でのサブタイトルが示されていることもあり、まあ、ある程度、原作に則って作られているのかな、と思っていたからだ。

ところが、原作を取り寄せて読んでみると、アニメ化に際しての改変は結構多く、ものによっては華々しく、そういう時、アニメ版ならではの名言が新たに発生しているのだとわかった。

手塚治虫よりもさらに踏み込んで、つまり、一世代ぶん内容や思考を掘り下げて、その結果、より含蓄のある名言が生まれていると思う。

その中で、気に入っているものをいくつか取り上げてみたくなった。

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手塚眞監督「命をめぐる4つの奇跡」
KARTE:4ときには真珠のように
(原作:ときには真珠のように)
「あなたの言うことは正しいのかもしれない。しかし、私は医者だ」
原作では、恩師本間先生の言葉を思いうなだれるシーンで終わるが、
アニメでは、さらに、海辺の岸壁で、それでも自分の道を行くしかない、との決意を示す行動とこのセリフで終わる。
よいスクリーンショットが撮れなくて悔しいが、無口なりに察するピノコの表情も愛らしく、素晴らしいシーンだと思う。
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手塚眞監督「ブラック・ジャック」
KARTE:36 岬の家は未完成
(原作:やり残しの家)
「悪いがどっちもゴメンだな。私なら、生きて最高の仕事を続ける!」
大工の丑五郎親方に「
やりたいこともできねえで、ダラダラ生きるのと、命と引き換えてでも、最高の仕事をやり遂げるのと」どちらがいいか問われた時の言葉。
傲慢とも言えようが、「生き方に妥協を許さない感」が素晴らしい。
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手塚眞監督「ブラック・ジャック」
KARTE:35 病院ジャック
(原作:病院ジャック)
「もっと早く、あんたに会いたかったぜ」
警官に連行されていくジャック犯のボスがBJに言った言葉。
名言とは少し違うが、心に残った。
運命の不公正さとか、犯人も悪人ではなかったと言う非情とか、大器は大器を知る、とか、いろいろ考えさせられるセリフだと思う。
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手塚眞監督「ブラック・ジャック」
KARTE:05 六等星の男
(原作:六等星)
「これは、応急処置のレベルじゃない。すでに整復が済んでいる。あの先生か!」
これも、いわゆる名言ではないが、心に残った。
BJが応急処置をした患者を引き継いだ、椎茸医師のセリフ。BJはピノコに、「お前にはわからないんだよ」と言ったが、なるほど、椎茸先生にはわかったのだな、と感じる瞬間。
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手塚眞監督「ブラック・ジャック21」
episode.13 ピノコ、日本へ帰れ
(原作:ピノコ愛してる)
「途中で投げ出して患者さんが死んでもいいの?先生は天下のブラック・ジャックだよ!アタチ先生が患者さんを死なせて苦しむ姿なんて見たくないの!アタチの肝臓でアルを治して。もしアタチが具合悪くなったらアタチを助けて。最後の最後まで諦めないのがブラック・ジャックでしょ!」
ピノコのセリフ。長いがこれは端折れない。数十本の「ブラック・ジャック」エピソードの、全てのピノコは、このセリフのために存在する。
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一番「すっげえーっ」と思ったのが、
手塚眞監督「ブラック・ジャック」
KARTE:41 オペと映画の奇跡
(原作:フィルムは二つあった)
「この映画で何人かの命が救われるなら、誰のオペでも関係ない。そうじゃないのか?」
もはや説明不要。
目的のためなら、功績などいらないし、己を殺すことも厭わない。その生き方がカッコいい。
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おっと、大事なセリフを忘れていた。
手塚眞監督「ブラック・ジャック21」
episode.17 生命の尊厳
(原作:99パーセントの水、二人目がいた)
「挑戦するのは嫌いじゃない」
ゼンマントク「永遠の命、それは脆弱な我々人類の死に対する挑戦だった」
BJ「挑戦ね」
マントク「ワシの血で免疫血清を作るつもりか」
BJ「可能ならね」
マントク「簡単にできるとは思えんが」
BJ「だったら、あんたもここで死ぬだけだ」
マントク「ブラック・ジャック、本気でフェニックス病が治せると思っているのか」
BJ「あんたと同じさ、挑戦するのは嫌いじゃない」

手塚眞監督「ブラック・ジャック」のKARTE: 27 最先端ルームの悲劇(原作:地下壕にて)でも、
BJ「何もしないで諦めるってことが出来ない性分なんでね」
というセリフがあるが、いずれも、随分カッコいいセリフだと思う。
性分という言葉ですませてよいものだろうか。
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さて、ここまで書いてきて、出崎統版での名言が一つもないことに私も気付いている。
で、一つだけ書いとくことにした。名言らしい名言ではないけど。
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出崎統監督「ブラック・ジャック」OVA
KARTE5 サンメリーダのふくろう
「オレは奇跡なんかは信じない男だ。だが正直、あの時ばかりは少しだけ、借りてみてもいいと思った。何かの、ちからを」