母の日のことなどをつらつらと考えていたら、ふと息子が産まれた日のことを思い出した。

 

寒い冬の日だった。

 

私は切迫早産で入院していて、ずっと点滴生活だった。

 

まだ産んではいけないタイミングだと言われ続け、入院は一カ月以上に及んだ。

 

「もうそろそろ大きさ的には安心できる範囲になってきたよ」

 

そう言われてホッとした私は、病院から母に電話した。

 

「万が一産まれてしまっても大丈夫だと言われたよ」

 

報告を受けた母は嬉しそうにはしゃいだ声で

 

「頑張ったね」

 

と言った。

 

もう少ししたら退院もできるから、そこまで持つかな。

 

あらかじめ告げられていた退院の日を指折り数える生活。

 

まだ点滴は入っていて。

 

だけど、シャワーも浴びられるところまできた。

 

間もなく待ちに待った退院の日だ。

 

家に帰れる。

 

そう喜びながら診察を受けた時、医師に告げられた

 

「陣痛が始まってますよ」

 

という衝撃の事実。

 

そりゃー確かにお腹がちょっと痛いなと思っていたけれど。

 

元々弱いので大したことではないと思っていた。

 

まさかそれが陣痛だったなんて。

 

よく出産の手引きに載っているような何分間隔とかもよく分からない。

 

痛い時と痛くない時の区切りも曖昧で。

 

これって結構余裕なんじゃないの?なんて思っていたら段々と痛みが強くなってきた。

 

ピークの時には息をするのも忘れてしまうほどの痛み。

 

これまで経験したことのなかった痛みだ。

 

 

 

 

夫は仕事で居なかった。

 

「今日は出張って言ってたでしょ。無理だよ」

 

と言われて、そうだよなと納得した。

 

何ならちょっと迷惑そうだった。

 

同じようなタイミングで産気づいた人は旦那さんがずっと背中をさすっていて。

 

それを横目に見ながら私は一人で耐えた。

 

だけど『もう無理かも』と思って弱気になってしまった。

 

その時、顔見知りの看護師さんが来てくれて産まれるまでずっとさすってくれて、水を口に運んでくれた。

 

嬉しかった。

 

孤独な闘いだなぁなんて思ってたから涙が出そうだった。

 

その日のことは今でも鮮明に覚えていて、今でも時々思い出すことがある。

 

あの日。

 

夫が居なくて良かった。

 

産んだ直後は『居てくれたら良かったのに』なんて思っていたけれど。

 

あんな大切な瞬間を独り占めできたんだもの。

 

妊娠中に動き過ぎて、まだ十分に育ち切っていなかったのに産まれそうになった息子。

 

病室のベッドの上でお腹をさすりながら、

 

「無理をさせちゃってごめんね」

 

と謝った。

 

産まれてきてくれてありがとう。

 

あなたが居てくれるだけでママは幸せだよ。

 

本当に心の底からそう思った。

 

今も息子を見ると神様に感謝したくなる。

 

色んな試練があっても、やっぱり息子と二人で過ごせる日々はかけがえのないものだ。

 

あの日のことを思えば。

 

離婚して二人になったとしてもスタートした時と同じ。

 

戻っただけのこと。

 

そんな風に今は考えている。