身じろぎもせず、ただひたすらじーっとお墓を見つめる人がいたら。
確かに不審に思うかもしれない。
ましてや様子を窺がうためにすぐそばまで行っているのにそれにも気づかないなんて。
さぞかし怪しく映ったことだろう。
お寺の方がどれくらいの時間こちらを見ていたのかは分からない。
ふと気づいたら横に立っていた。
そして急に、
「遺された人は今を精一杯生きなければなりませんよ」
と諭された。
いきなりのことだったので私はビックリして振り返った。
そこで初めてお坊さんらしき方がそばにいることに気づいた。
「あなたが時々思い出してあげるだけでもご供養になります」
と穏やかな声で話しかけてきたお坊さんは少し硬い表情にも見えた。
私は何が何だか分からず状況も呑み込めなくて、
「はい………」
と答えながら俯いた。
それからポツリポツリと言葉を交わしたのだが。
どうやらお坊さんは勘違いしているみたいだった。
私が思い詰めてここに来たのではないか、と。
確かに険しい表情をしていたのかもしれない。
でもそれは、緊張しながら移動して疲れたのと太陽が眩しかったからであって。
決して深いことを考えていた訳ではない………。
せっかく心配してくれているのに、まさかそんなことを言うこともできず。
ただひたすら曖昧に頷いた。
それで最後には『おっしゃっりたいことはよく理解しました』という感じでお礼を述べた。
お坊さんが去った後、私はやっとお墓の前まで行ってお花を飾った。
そうだ、お水を汲んでくるのを忘れた。
すぐ近くにあることに気づいて汲みに行き、たっぷりとかけてあげた。
お線香は少しだけ。
その前で手を合わせて目をつぶると友人の話し声が聞こえてくるような気がした。
優しい声。
柔らかな笑顔。
今でも鮮明に記憶に残っている。
その時は少し離れた場所に人が居たので、私は心の中で話しかけた。
ここまで来るのにずいぶん迷っちゃったよ。
本当はもう居ないなんて信じられなかったんだ。
でも、こうやって来てみたらやっぱり本当だったんだね。
会いたかったな。
最後、連絡を取ることができなくてゴメンね。
あれからも色々あったんだよー。
そんなことを報告した。
それから今実家に戻っていることや夫と離婚するつもりだということも話した。
辛くなった時に力になってくれた友人だからこそ安心させたいと思った。
その報告がまさかこんな形になってしまうなんて。
話しているうちに何故だか急に涙がポロポロと出てきて、止めようとしているのになかなか止まらなくなった。
あれっ、おかしいな。
どうしちゃったんだろう。
鼻をズビズビしながら慌ててティッシュを取り出した。
そうしたら、目の前に飾った花が風もないのに揺れた。
『なんで泣いてるの?』と言ってるみたいに。
えーっ?そこに居るの?
あの有名な歌の歌詞だとそこには居ないんでしょ?
なんて思いながら少しだけ笑ってしまった。
きっといつまでもこの後悔が消えることはないだろう。
でも、後悔しながらも彼のことを覚えていて心の中で話しかけることはできる。
そのためには元気で頑張らなくちゃね。
そんな感じで締めて立ち去ろうとした時、またお坊さんから話しかけられた。
「話したくなったらいつでもいらっしゃい」
と。
何だかすいません。
けっこう楽しく会話してたんですけどね、お空の友人と。
そんな感じで無事にお墓参りに行くことができた。
今は心の中で一区切りついたかなという感じだ。