実は、こっそり家に行ってきた。
通帳を回収するために。
家を出る時に必要なものはバッグに入れたつもりだったのだが。
切迫した状況だったので足りないものを確認している余裕などなかった。
思いつくままに手に取って持ち出した感じ。
だから、大事な通帳が一つ足りないことに気づいた時には青ざめた。
用途ごとに作っていたら増えてしまい、管理が大変で気づくのが難しかったというのもある。
よくよく考えたらどうでも良いような通帳は持っていたのに、肝心のものを置いてきてしまった。
だから、ずっと気になっていた。
それをようやく回収しに行く気になったのは、夫が居ない時間を知っていたから。
性懲りもなく誰かの携帯から電話してきて、どうでも良いメッセージを残していた。
その中で自分から翌日のスケジュールを明かしていたのだ。
「14時から15時に病院に予約が入っていて、しっかり治療してきます」
そんな意味不明の宣言をしていた。
こんな一方的なメッセージは全く求めていない。
すぐに消そうとしたが、そこでふと考えた。
これはもしかしたら大きなチャンスなんじゃないの?と。
時間を間違えたら大変だから、しっかりメモを取ってからメッセージを消去した。
念には念をということで、少し早めに到着してギリギリ見える位置から我が家を観察。
途中で知り合いに声をかけられそうになり、うつむきながら少しだけ移動してまた戻るというハプニングもあった。
私の読み通り、13時45分に夫は出かけて行った。
義母と共に。
15時までの予定と言っていたが、恐らく14時半には終わって45分ごろには家に戻るだろう。
その前に回収しなければ。
私は慌てて鍵を開けてこっそり家に入った。
我が家なのに(しかも家賃だって払っているのに)まるで泥棒に入ったような気分。。。
棚の位置や置いてある物なんかも以前と変わっている様子もなく、ホッとしてお目当ての棚の扉を開けた。
開けてから驚いた。
そこに入れておいたはずのものが全部無くなっているのだ。
空っぽになっている棚を見て呆然とする私。
どうしよう。
時間も限られているし、来た痕跡を残してはいけないから丁寧に探さなければならないのに。
予想外に時間との戦いになってしまい、焦る焦る。
それからは、まだ全然大丈夫な時間なのに何度も時計を確認してしまった。
色んな扉を開けて、後ろの方まで探っていく地道な作業。
緊張から手が震えて大きな音を立ててしまった瞬間もあった。
その音に自分でビックリして持っていた物を放り投げそうにもなった。
まぁ、色々あった。
やっぱり人はコッソリ何かをする時は通常よりも緊張してしまうものなんだね。
探しても探してもなかなか見つからなくて『今回はもう無理かな』と諦めそうになった瞬間。
やっとお目当てのものを探し当てた。
もうここに無かったらどこにあるか分からないと思って探し始めた最後のスペースにあった。
忘れもしない。
サンリオの透明のケースの中にシールとかメモ帳と一緒に入れておいた通帳。
なぜそんな風に保管しておいたのかというと、元々夫には内緒にしていたから。
これまで息子のためにとコツコツ貯金してきたものだ。
それなのに、夫が自分の物だと勘違いしたら困ると思った。
急いでサンリオのケースの中から通帳だけを取り出してショルダーバッグにしまい込んだ。
ケースはまた元の場所に。
本当はね、お気に入りだから持って行きたかった。
でも、ほんの少し何か無くなっただけでも気づく人だから諦めた。
そっと鍵を閉めて周りを確認し、道に出た後は目立たない道を選んで駅まで急いだ。