私たちが家を出たのは去年の夏のことだった。
その頃は、離婚さえできれば私も子供も夫とはキッパリと縁を切れると思っていた。
でもなかなか思うようには進まないものだ。
未だにその離婚さえできていない。
家を出た時の勢いはどこへやら。
あの頃は『やっとこれで自由になれる!』という気持ちが強くて。
喜びやホッとした気持ちでいっぱいだった。
だけど、どこか足元はフワフワしていて。
気持ちばかり先に行っている感じだった。
今はあの頃よりも着実にやるべきことをこなしている。
専門家に相談するのもその一つだし。
今後のためにカウンセリングも受け始めた。
そうやって少しずつ前進している。
そんな中、共同親権が始まるというニュースを見た。
以前から気になっていたのだが………。
まさかこんなに早くスタートしてしまうとは………。
できれば共同親権が決まる前に離婚したかった。
夫はこういうところに抜かりがない。
だから不安がある。
きっとこの点を攻めてくるだろう。
離婚のための話し合いになった時にどれだけ虐待の証拠を示せるかが重要になると思う。
私へのモラハラの証拠も。
相変わらず私の携帯には鬼電をかけてきている。
まさか二台目を持っているとは夢にも思わないのだろうが、その執着心には恐ろしさを感じる。
しつこくかけてくれば不便に感じて出てくれるだろうとでも考えている節がある。
兄の助けによってこの点は気持ち的に楽になった。
そして明日。
いよいよ二回目の弁護士さんへの相談が控えている。
今回は前よりも少し年配の方。
年の功できっと色んな知恵を授けてくれるだろうと期待している。
ただ、モラハラに関してどのくらいの認識があるのかが未知数なので気を抜けない。
昔から虐待はたびたびニュースになっているから、虐待に関しては問題ないと思う。
上手く話ができると良いな。
そのための準備をしていたら、また何度も何度も着信があった。
着信に関しては、二台目の携帯で写真を撮って残している。
しつこい時も多いけれど、大抵は鬼電が数日入った後は驚くほど何の音沙汰も無くなる。
実は今回のはいつもと違う感じがしている。
何となく違和感があるというか。
ただ、これまでもそうやって無理やり連絡を取るように仕向けてきてそれに乗ってしまい何度も痛い目にあわされてきたから。
今回もそういう企みがあるのかもしれないと無反応を貫いている。
夕方、携帯を遠くに置いていることで気を抜いていたら家電が鳴った。
見慣れない番号だった。
実家では見慣れない番号は出ないようにしている。
なぜかコール音が何回鳴るのかを心の中でカウントしていたら、途中で留守電に切り替わった。
そこから聞こえてきたのは夫の声だった。
夫が性懲りもなく家にかけてきたらしい。
ちょうどそばで聞いていた兄は、何を思ったのか急に受話器を取ってそのままがチャンと切ってしまった。
これってどういう感じになるんだろう。
留守電の故障だとでも思うかな。
もし故意に切ったことが分かったら猛烈な怒りをぶつけてくるだろうが。
事実はここにいる人しか知らないのだから問題ない。
それにしても、家にまで電話をかけてくるなんて一体何の用なの?
私は明日のことに集中したいのに。
電話のディスプレイを見た時、ほんの一瞬だけ息子は不安そうな表情になった。