出会った頃の夫は自分に自信を持っていて眩しかった。

 

社会に出たばかりの私から見ると、まるで違う世界の人のようで。

 

私もあんな風になれるのかな。

 

そんな風に自分の未来を夢見てワクワクした。

 

まだ世間のことを何も知らず、モラハラなんていう言葉も理解していない頃の話。

 

入社して数か月の研修を終えた私たちは、それぞれ別の部署に配属された。

 

同期とバラバラになるのは、正直なところ心細かった。

 

研修中は毎日一緒だったから。

 

でも、数人の先輩がフォローしてくれて何とか自分なりにこなすことができるようになった。

 

その先輩たちの中でも目を引いたのが今の夫だった。

 

常に堂々としていて、自分より上の立場の人にも物怖じせずに発言する人で。

 

意見が対立した上司に強気の口調で詰め寄っているのを見た時には驚いた。

 

社会に出るとこんな人がいるんだ。

 

一人前の社会人になるには自分の意見も言えなくちゃダメなのかな。

 

そう感じて尊敬のような気持ちを抱き、同時に自分が恥ずかしくなった。

 

いつも自分の意見を言うことができなくて言葉を飲み込んでしまう。

 

発言したとしても、『あんなこと言って大丈夫だったのかな』と不安に思う。

 

自己肯定感が低くて自信のない私にとって夫のような人は新鮮だった。

 

入社してから数か月が経ち、同期の女の子が夫の同期に恋をしたことは以前ブログにも書いた。

 

その時までは、先輩と後輩という間柄以上に親しくなるなんて夢にも思わなかった。

 

だけど同期の相談をしているうちに段々と親しくなっていった。

 

実はその段階で私の変化に気づいた人物がいる。

 

一緒に入社した同期の男の子である。

 

 

 

 

「君、最近おかしいよね」

 

そう言われた時にはかなり動揺して態度に出てしまったのかもしれない。

 

多分相手はカマをかけたつもりで、私の狼狽えぶりを見てビンゴだと思ったのだろう。

 

「やっぱりね」

 

と言いながらため息をついた。

 

私は気になって、

 

「何?言いたいことがあるなら言ってよ」

 

と言ったのだが彼がそれ以上言葉を発することは無かった。

 

だけど、しばらくしてから急に

 

「君にはあの人は合わないと思うよ」

 

と言われてドキッとした。

 

同期は頼りになる人で、研修中も別の部署に配属された後も常に私を助けてくれる存在で。

 

感情任せに発言するような人ではない。

 

だからこそ余計に気になって

 

「どうしてそんなこと言うの?」

 

と聞いたのだが、ただただ『止めておけ』と言うだけだった。

 

今思えば、あの時の忠告をもっと真剣に聞いておくべきだった。

 

結局はモラハラされて子どもも虐待されて、未だに離婚もできていない。

 

その彼も去年遠い手の届かない場所に行ってしまい、二度と会えなくなった。

 

私はまた心細くなった。

 

もう相談できなくなっちゃったから自分だけで何とかするしかない。

 

そんな風に思えば思うほど、彼がどれほど助けてくれていたのかを思い知った。

 

実はその彼は夫に目の敵にされていたのだが、よく言っていたのが

 

「根拠のない自信を持つ奴が一番嫌い」

 

という言葉だった。

 

この言葉は彼にだけ発していたわけではない。

 

私の下に入ってきた子や一つ上の先輩も言われていた。

 

あの頃は夫の求めるレベルに無いからだと勘違いしていたが、今考えると違うと思う。

 

みんな魅力的で他の人たちとも上手くいっていた。

 

もしかしたら、自分には無いものを持っている人たちを認めることができなかったのかもしれない。

 

自分が一番でないと許せない人だから。

 

夫自身が自分に投げかけていたようにも思う。