義弟から私にお願いがあるという。
それは、万が一離婚になっても息子を義両親に会わせてあげて欲しいということ。
時々で構わないから、と。
彼らが思い描いていた未来とはかけ離れた現実を歩むことになった。
本当はみんな仲良く義実家の周りに集まって、助け合いながら暮らしたかったけど。
それが叶いそうもないから、せめて義両親には心穏やかに暮らして欲しいと言う。
義両親も年を取ってからこんな苦労をするとは思ってもいなかっただろう。
息子二人とも家庭内で問題を抱えていて、なかなか仕事もできず厳しい現実が目の前にある。
傍から見ても大変な状況にあるわけで。
その気持ちを否定することはできない。
でも、期待されても困るなぁというのが正直な気持ちだ。
しかも、このお願いには続きがあって、
「その代わり、うちの親の普段の生活とかのケアはこちらで何とかするから気にしないで」
という言葉にズッコケた。
そりゃあそうでしょうよ。
義両親は元々あなたたちの親であり、私は結婚したことで初めてご縁が出来た。
そのご縁が切れるというのなら、その後に面倒を見るのは夫や義弟のはずだ。
この言葉だけを見ると、離婚しても私がケアをしなければならないように感じられてしまう。
そんな風に思うこと自体が意地悪なのかな。
きっと義弟も余裕が無いんだと思う。
本当は今頃購入したマンションで優雅な暮らしをしているはずだったのに。
会社でパワハラにあって休職しがちになり。
義弟の奥さんは結婚と同時に仕事を辞めてしまったから頼ることはできない。
更に、奥さんが仕事を辞めた後でも生活レベルを落とすことができずにローンの支払いも厳しくなった。
それだけ大変なことがあっても、義弟には受け入れてくれる実家があったのでまだ良かった。
義弟の奥さんは実家を頼れないという。
『離婚する』と言ってからも行方不明になったりして色々あったが。
結局まだ離婚していないような状況で、問題を抱えたまま宙ぶらりんの状態。
目の前にある問題が大きすぎると、誰でも目をそらして現実逃避してしまいたくなるのかもしれない。
義弟が今まさにそれで、兄である夫が頼りにならないから私に言ってきたのだろう。
息子は覚えていないみたいだが私は義実家に何度も足を運んだ。
だから、今も家の中の雰囲気とか空気を思い出してしまう。
全ての歯車がかみ合っていた時には義両親も幸せそうだった。
お腹の中に息子が居た時に訪問したら、ベビー用品が買ってあって手渡してくれた。
『あぁ、楽しみにしてくれているんだな』
そんな風に思って心が温かくなった。
息子が赤ちゃんの頃には、おもちゃがたくさん用意されていた。
何事もなければ、この後もずっと一緒に成長を見守ってもらうはずだった。
ただ、本当は全てが順風満帆だったわけではない。
息子が産まれる前から既に私の心にはチクチクとした棘が刺さっていて。
これまでに経験したことのないような抑圧された生活の中で必死にもがいていた。
辛いことは見ないようにしていた。
気づかなければ大丈夫。
この幸せを手放してはダメ。
自分に自信のない私にとって、家を出ることは世界がひっくり返るくらいの大きなことだったけど。
ようやく今の生活にも慣れてきた。
義弟や夫はまだ失いつつあるものを受け入れられないのだろう。
だから、幸せな家庭という幻を追いかけているのかもしれない。