「大きくなったらお父さんをやっつけるんだ」

 

ある日、息子がそう言った。

 

決してネガティブな感じではない。

 

そうすることが最善のように感じているみたいだった。

 

その言葉を聞いた母は

 

「それならたくさん食べなくちゃね」

 

と言って、息子にたくさんご飯をよそった。

 

怯えるばかりの日々は本当に疲れる。

 

いつも心の隅っこに何か引っかかっているように感じる。

 

楽しいはずの時間も、急に現実に引き戻されることがある。

 

だから息子なりの解決策だったに違いない。

 

何気ない言葉だったと思うのだが、何故か心がズーンと重くなった。

 

正直な気持ちとしては、やっつけられても仕方ないようなことをしてきたと思う。

 

今さら『許して』と言ったところで許されるものでもない。

 

それほどに苦しめられてきたし、今でもまだ逃げられていなかったらと想像するとゾッとすることがある。

 

だけど、そんなことを目標にして生きていくのはやっぱり違う。

 

息子は自分のために大切な時間を費やすべきだ。

 

父親のことを考えること自体が無駄なのだ。

 

考えるということは、まだ囚われているのと同じこと。

 

これは私にも言えるのだが、気にしているうちは本当の意味で解放されていないのではないかと思う。

 

一番良いのは忘れてしまうことなんだけど。

 

まだ、たった7カ月。

 

そんな短い期間ではそこまで達観するのは難しいのかな。。。

 

 

 

 

息子は自分で言ったこの言葉を時折思い出し、急に食欲旺盛になる。

 

今日もそうだった。

 

普段はそれほど食べないのに、何かそういう使命感に突き動かされているようにも見える。

 

小さな体で懸命に見えない敵と闘っているように見えて、そのたびに夫の存在の大きさを思い知らされた。

 

良い意味での存在感を感じられる人だったら良かったのに。

 

息子に与えた影響はどれも目を背けたくなるようなものばかりで。

 

直視しなければならない私や周りの大人たちが戸惑うことも少なくない。

 

そんな中でも逞しく『やっつける』という息子を誇らしく思っても良いのだろうか。

 

でも実際はそのパワーのベクトルを息子の未来に向けて欲しいと願う。

 

もう夫に惑わされない強い心が欲しい。

 

それで私が息子を全力で守るから。

 

息子は『そんな人いた?』って忘れちゃって良いんだよ。

 

日々やりたことをたくさんやって、夢を持って生きて行ってくれたら。

 

それが一番の復讐になる気がするんだ。