数日前から『お友達と遊びに行く』と伝えていた息子。
本当に行けるのだろうかと不安になりつつも当日を迎えた。
あんなに楽しみにしていたのに、やっぱりスムーズにはいかなかった。
出かける直前に難癖をつけられた息子はきっと失望したことだろう。
今回もダメかもしれない。
ママが作ってくれたお弁当も取り上げられてしまった。
みんなお昼を持ってくるのに、このままでは行けない。
そう思って諦めようとしていたのだが、夫が強引に玄関の外へと追いやった。
「お前なんてもう知らねー!」
という捨て台詞と共に。
途方にくれた息子は、約束の場所に向かってトボトボと歩いた。
お友達は『もしかしたら来られないかもしれない』と思っていたに違いない。
しかし、歩いてくる息子を見つけて大声で叫びながら手を振った。
「○○~(息子の下の名前)、良かったな!」
他のお友達もその声を聞いて集まってきて、三人が手を振りながら『早く、早く』と言った。
着くなり息子は泣き出してしまった。
遊びに行けたことは嬉しかったそうだ。
でも、みんなと遊んだ後はやっぱり家に帰らなければならない。
だけど、父親が怒っていて家には入れてもらえないかも。
お昼だってどうしよう。
何も食べる物がないからお腹が空いちゃうだろうな。
色んなことを考えたら悲しくなってしまったのだと言っていた。
急に泣き出した息子を見て、
「どうしたの?」
と不思議そうにしていた子どもたちだったが、事情を話したらその中の一人が
「大丈夫だよ」
と言ってくれた。
何が大丈夫なのか分からず息子がその子を見ていたら、リュックを開けて見せてくれて
「お弁当いっぱい持ってきたんだよ。一緒に食べよ」
と言ってくれた。
他の子たちも『自分のをあげる』と言ってくれたので、結局たくさん食べたそうだ。
たっぷり遊んで夕方になり、そろそろ帰らなければならない時間が近づいてきた。
息子はついつい時間が気になってしまう。
楽しい時間はいつもあっという間に過ぎていき、家に帰れば父親からの理不尽な仕打ちが待っている。
今は遊びに出かけたことで怒っているから、いつもより酷い目に遭うかもしれない。
不安な気持ちから、いつまでも帰れないでいた。
一人目が帰り、二人目帰り、とうとう今回の遊びに誘ってくれた子と二人きりになった。
「ボクももうそろそろ帰らなきゃ。○○(息子)、大丈夫?」
心配そうに声をかけてくれるその子もまだ7歳。
たくさん迷惑かけちゃったね。
幸いその日は社用で外出していて、いつもよりも1時間早く帰ることができた日だった。
帰り道によく行く公園で息子ともう一人。
ハムスターみたいに寄り添ってポツンとベンチに腰かけているのが見えた。
もう夕方だったので驚いて駆け寄ると、お友達が
「○○君(息子)が怒られちゃうから帰れないんだ」
と教えてくれた。
だから、
「もう大丈夫だよ。付き合ってくれてありがとうね」
と言い、送って行こうとしたら
「ボクの家はそこだから」
とすぐそばの家に入って行った。
私が息子を連れて帰ってきたのを見て、夫は一瞬だけ驚いたような素振りを見せた。
でも、すぐに鬼のような形相に戻って、息子に
「誰が帰ってきて良いって言った!あぁ?!」
とすごんだ。
小さな息子は少し震えていた。
遊びに行くことさえままならない。
何をしても怒られてしまう。
それが私たちの日常で、誰にも『助けて』と言えなかった。