『男の子には父親が必要だ』
昔からよく耳にする言葉だが、まさか自分が言われることになろうとは。
それを言ったのは、驚くかもしれないが夫自身だ。
自分が父親だという自覚はあったんだね。
だけど、息子からは父親認定されているかと言えば微妙なラインだと思う。
もう夫のことを『お父さん』と呼ぶことは無くなった。
会話で出てくる時には『あの人』とかそういう抽象的な言い方をしている。
第三者が聞いたら誰のことを言っているのか分からないかもしれない。
最近では『あの人』という言葉すら出したくない雰囲気になっている。
会話に出てくると拒絶反応を示すので、周りも意識して出さないように気を付けている。
夫がそんな風に言い出したのは、誕生日の一連のイベントに関わらせなかったからだ。
執着しているので、拒否されたことを引きずっている。
プライドが傷つけられたと言い、次の時にはきちんとお祝いをしたいのだと訴えかけてきた。
次のお祝いの時………。
私としては離婚しているだろうな、と思っている。
だから余計に受け入れることはないのだが、今それを言ったら警戒されてしまうから無反応を貫いた。
産まれてからこれまで、ほとんどお父さんらしいことをしてこなかった夫。
そんな人が今さら男の子には父親が必要なのだと力説している。
どの口が言うかという感じだけれど、自分の置かれた状況も分からない可哀そうな人なのだとも感じた。
父親が必要だと言うのなら、母親だって同じように必要なはず。
つまり、父親という存在の夫が百歩譲って必要なんだとしてもそれが親権を得る理由にはならない。
ただ、別居の日まで続いた虐待のことを思うと、そんな権利を訴える資格は当然ないだろうとも思う。
実はこの話には続きがあり、最後の方の発言がとんでもない爆弾だった。
私が無反応なのを良いことに、次々と言いたいことを言って語気を強めていく夫。
次第には、『母親も必要だけど、それは絶対じゃない』という話になり、最後に驚くようなことを送ってきた。
『母親の代わりはいくらでもいる』
この言葉で、何を考えているのかを察してしまった。
ああ、この人は別れることになっても自分が親権を取って別の人と息子を育てるつもりなんだ。
家族という形に執着しているけど、そこに絶対に居なければならないのは自分と息子であって私が必要ないんだ。
そんな風に感じてしまい、怖くなって心が震えた。
間もなく専門家の人との面談が待っている。
その時にこの状況をどう説明しようか。
私が求めていることは明確で、夫と離婚して息子の親権を取りたいということだけを考えている。
知り合いから、
「離婚を有利に進めるためには隙を作っちゃだめだよ」
と注意された。
親権者としてふさわしくないと思われるようなことは極力避けなければならない、と。
その人は数年前に離婚していて、かなり揉めたらしい。
相手はそれほど執着する人でないと思っていたのに、いざ離婚することになったら物凄く揉めたそうだ。
準備をして臨んだつもりでも、内心はスムーズに決まるだろうという慢心もあったみたいで。
「相手がごく普通の人でもそうなんだから、あなたのところは気を付けないと」
と心配されてしまった。
あれっ?
彼女にはモラハラされたって言ってないと思うんだけど。
普通の人じゃないって、もしかして見抜かれていた?
きっと見る人が見たら分かるんだろうな。
タラレバだけど、新卒で何も知らなかった頃の私に教えてあげたい。