息子は何に関しても最初からあきらめている。
「多分ダメだよ」
というスタンスなので、なかなか挑戦しようとすらしない。
元々がそういう性格なのではなく、もっと幼い頃は無鉄砲と言ってもいいくらいにチャレンジしていた。
失敗しても笑っているような子だった。
「もう止める?」
と聞いても、
「まだやる!」
と元気に屈託なく笑う息子の笑顔が大好きだった。
こんな風になってしまった原因は夫だが。
夫自身はそれを認めようとはしない。
「何でも俺のせいにするな!」
と怒られてしまう。
でも、他に理由が思い当たらない。
一緒に居た頃は息子に向上心がないといつも怒っていて、
「あなたの日頃の叱り方が原因だよ」
と言ったら激高していた。
「何でもかんでも俺のせいにしやがって!何もしてねーくせに口挟むな!」
と言うのだが、口を挟めないのは何を言っても却下されるから。
一生懸命提案しても、すぐに却下されて、
「その程度の意見しかできないなら、最初から口を出すな」
と言われてしまう。
それで最終的には『お前は何もしていない』と責められることになり、そんな奴には意見する権利が無いとされてしまうのだ。
最初から私に意見を言う権利が与えられていないことは分かっていた。
でも、こうやって回りくどいことをして自分を正当化し、最終的に私に非があるからというのは卑怯だと思う。
いつもこんな感じで口を挟むことを許されなかったので、息子と私は言われるがままだった。
例えば、学校の宿題をやっている時。
ちょっとした計算ミスをするだけで、
「こんなことも出来ねー奴が学校に通うな!」
と可笑しなことを言う。
「園児だってもっとマシだ!」
「お前は遊んでばっかりだから、こんなバカでもできることができないんだ!」
耳元で永遠とそんなことを言い続け、しまいには
「毎日10時間勉強したって周りの子たちには追いつけないんだからな」
「お前はバカだから、努力しなければ友達と同じレベルにならない」
と罵った。
毎日馬鹿だ馬鹿だと言われ続けたから、息子はすっかり自信を無くしてしまった。
授業参観でも、皆が元気に手を挙げている中で一人固まっていることが多い。
だけど、手を挙げないと後で
「あんな簡単な問題も分からねーのかよ!」
と怒られるから、最後の方に渋々挙げることもある。
それでは夫は当然納得しない。
夫が求めているのは他の子に一目置かれるような優等生だから。
『恥をかかされた』と激怒して、家に帰ってから酷く怒鳴られたり叩かれたりした。
そもそも、家で勉強している時でもちょっと悩んで答えが遅くなってしまったり間違ったりすると叩くから。
息子だって怖くて勉強に集中できないのだ。
虐待なんてしていないと言ったって、帰宅後に息子の手が赤くなっていたりすればすぐ分かるのに。
夫は私のことも甘く見ているから平気で噓をつく。
着替える時に背中に赤い手形が見えたり、太ももが青くなっていることに気づくこともあった。
できるだけ毎日何かなかったかコッソリ確認するようにしていたが、夫がいるとできない。
夫は私たちの行動を常に監視していて自由な時間が無いので、目を盗んで確認するしかなかった。
見つけた時に息子に聞くと
「大丈夫だよ。ぼくが悪いんだから」
と言っていて、その言葉が更に息子自身を追いつめた。
大丈夫じゃないのに『大丈夫だよ』と言うのはとても辛いことだ。
抑圧された生活の中で、そう思い込もうとしているように見えた。
そして2年生になり、3年生になり。
段々と本気で自分が悪いと思っているように感じることが増えた。
このままではダメだ。
そんな息子を見るたびに逃げ出すことを考えたが、恐怖から思考力が低下し、何から始めれば良いのかが分からなかった。