私たちが家を出てから、夫は息子の様子を聞きたがるようになった。

 

一緒に居た頃は自分のことばかりだったのに。

 

息子に声をかける時には、大抵自分の指示や意向を伝えるためだった。

 

それを聞いた後に息子が言った通りにしなければ、トラウマになるほど怒ってなじる。

 

だから段々と夫の言うことは絶対だという雰囲気になった。

 

逆らうことは許されない。

 

幼くても、やっぱり『こんなお父さんはおかしい』と感じていたと思うのだが。

 

そんな不満を表面上見せることは一切無かった。

 

それなのに。

 

離れた途端に息子は何をしているのかとしきりに問う。

 

本当は興味もないくせに。

 

興味があるとしたら、自分の思い通りになる相手が欲しいだけなんじゃないの?

 

これまでの生活によるトラウマから夫に対して私が強く言えないことも分かっていて色々な要求をつきつけるのも、ずっと変わらない。

 

今のままではダメだ。

 

私たちはずっと夫の支配から逃れられない。

 

法律相談に行こうとして、だけど何故かその直前になると体が固まってしまうことを夫は知っているのだろうか。

 

知っていても、『俺のせいではない』と言うだけかな。

 

これ以上苦しむのは私だけで良いと思い、息子の記憶から夫を消すべく色んな努力をしている。

 

夫が息子の様子を聞きたがっても一切教えない。

 

痛めつけたくせに、聞く権利があると思っているのが間違いなのだと思う。

 

そんな私の気持ちなど理解できない夫は、当たり前のように聞いてくる。

 

節分のような行事をいつも楽しみにしていることを知っているから。

 

私はあえて

 

「今年はいつもより念入りに鬼退治していたよ」

 

と答えた。

 

夫は息子の様子が聞けて嬉しいのか

 

「そうだろ?○○(息子)は節分も楽しみにしてたもんな」

 

と上機嫌になった。

 

そこで私は

 

「何を退治したと思う?」

 

と聞いたら

 

「鬼だろ?節分なんだから」

 

と言うので、

 

「鬼………なのかな。正確には違うんだけど」

 

と答えた。

 

 

 

 

どうしようかな。

 

『あなたを退治したかったみたいだよ』と伝えたら怒るかな。

 

迷っていたら、勘の良い夫は察したようだった。

 

「まさか、それって俺のこと………?」

 

と自分から言ってきた。

 

自覚はあったんだね。

 

そうだよ。

 

あなたのことを退治したくて、一生懸命豆を投げたんだよ。

 

そんな気持ちを込めながら

 

「言いにくいけど、そうなんだよ。それが○○(息子)の気持ちなんだよ」

 

と言った。

 

それを聞いた夫は落胆した様子で、

 

「そっかー。そうなんだ………」

 

と言ったきり、黙り込んだ。

 

まぁ、ショックを受けるのは当然か。

 

あれほどのことをしてきたのに、何故か息子に嫌われていないと思ってたんだから。

 

男の子は父親に懐くという謎の自信があって、何をしても許されると思っていた節がある。

 

今回はそれを打ち砕くようなことになってしまったが、これまでも息子の気持ちを理解する機会はあったはず。

 

これで、もう息子と暮らすことはできないと諦めてくれれば良いのだが。

 

ああ見えて夫は寂しがり屋なので、自分の周りから家族が居なくなるのを受け入れられないのかもしれない。

 

ほんの数分の電話だけど、私は夫に現状を分かってもらうことができて満足していた。

 

こうやって今の状況を根気良く伝えることで、少しずつ夫の執着が薄れていってくれれば良い。

 

そしていつか、夫の方からその手を離してくれる日が来れば嬉しい。

 

そうでないと、私たちは心の底から安心して過ごすことができない。