去年遠いところに行ってしまった友人から手紙が届いた。

 

誰かが代わりに送ってくれたらしいのだが、それが誰なのかは分からない。

 

読みたい気持ちはもちろんある。

 

でも、色々と考えているうちに怖くなってしまい、バッグにしまいこんだ。

 

覚悟が出来てから読もう、と。

 

その日は早めに就寝したのだが、久々に夢を見た。

 

いつの間にか、その人と公園のベンチで話をしている。

 

夢の中の私は、まるでそれが現実のように受け止めていて、彼と話をしていることに全く違和感を感じていない。

 

それどころか、まるでずっと連絡を取り合っていたかのような雰囲気だった。

 

私は何かを懸命に思い出そうとするのだが思い出せない。

 

思い出そうとすると、まるで脳に霧がかかったように頭が働かず。

 

でも何か大切なことを忘れているような気がして考え込んだ。

 

そんな様子を見て心配そうに

 

「どうした?」

 

と声を掛けてくれて、

 

「また何か悩んでるの?」

 

と言った。

 

のぞき込んだ顔がとても優しくて、私は心の底から安心した。

 

言葉にできないような心地良い空間で、とてもリラックスしていた。

 

「大事なことを忘れているような気がするんだけど、思い出せないんだよね」

 

と言うと、

 

「仕事のこと?それともプライベート?」

 

と聞くので、

 

「うーん、分かんない」

 

と答えた。

 

ふと見ると、彼が何だかとても青白く見えた。

 

「調子悪いの?また今度にしようか」

 

と提案したのだが、

 

「大丈夫だよ」

 

と言って帰ろうとしない。

 

無理をさせたらいけないと思って、彼の手を取って立ち上がらせようとしたら、『ワッ!』と驚いて声が出てしまうほど冷たかった。

 

とても人の手の感触とは思えないくらいに冷たくて心配になった。

 

「やっぱり今日はもう帰ろうよ。また別の日にしようよ」

 

そう言っても、彼は頑なに首を横にふる。

 

いつになく頑固な彼に困ってしまい、だけど余程何か言いたいことがあるのかと考え直し、

 

「じゃあ、暖かい所に移動しよう」

 

と声を掛けた。

 

でも、彼は

 

「ここで良い」

 

と。

 

「もう時間がないんだ」

 

と言われ、『えっ?』と思いながらまじまじと彼の顔を見ると、薄っすらと涙がにじんでいた。

 

 

 

 

その涙を見て、私はハッと思い出した。

 

そうだ。

 

彼はもう居ないんだ。

 

では、これは夢なの?

 

もう何が何だか分からなくなって、でもまだ彼と話したくて洋服の袖をつかんだ。

 

彼はその手を上から握り、

 

「連絡できなくてゴメンね」

 

と言った。

 

「良いんだよ。これからいっぱい連絡取ればいいでしょ」

 

と泣きそうになりながら言ったら

 

「できないよ。分かるでしょう?」

 

と。

 

その時、なぜか私は

 

「手紙!」

 

と言った。

 

その時は全く手紙のことを考えていなかったし、頭の中から抜けていたのに。

 

『手紙』のワードを聞いて彼はかすかに頷いた。

 

その様子を見て私は全てを理解した。

 

「手紙、ちゃんと読むから」

 

「居なくならないで」

 

そんな言葉を投げかけられた彼は黙ったまま、寂しそうにほほ笑んだ。

 

そこは広場にベンチが設置されているような場所で、さっきまでは子供の声や木々のこすれる音やザワザワという音が聞こえていたのだが。

 

気が付くと水が流れるような音がしていて、急に背後でザーっと音が鳴ったので驚いて振り返った。

 

でも、何もなくて同じようなベンチが並んでいるだけ。

 

『何だったの?』と思いながら向き直すと、もう彼は居なかった。

 

 

起きてから手紙を読んだ。

 

それで、一度電話をくれたことが分かった。

 

だけど出たのは私ではなく夫で、

 

「(私が)迷惑してるからかけてこないで」

 

と言われたそうだ。

 

そんなはずはないことは分かっていても、私の立場が悪くなることを恐れて連絡を控えていた。

 

いつかまた連絡しようと思っていたけど、どうやらそれは叶いそうにないから手紙を書いた。

 

文中には『いつも自信のない○○(私)が心配です』とあった。

 

私、最後まで心配かけてたんだな。

 

少しは恩返ししたかったな。

 

『ずっと見守ってるから』

 

という言葉は私の宝物になった。