息子がまだ低学年の頃、ポスターで表彰されたことがあった。

 

実はそのポスターの題材を決めたり仕上げるまでにはひと悶着あった。

 

例のごとく、夫は息子が何をしても認めようとしないので、題材を決めるだけでも時間がかかってしまった。

 

「どういうのを描こうとしてるんだ?」

 

と聞いてくる夫に、息子は自分なりの言葉で説明した。

 

まだ小さいのにしっかり考えているな、と感心していたら

 

「そんなのはダメだ」

 

と夫が却下した。

 

それで息子も困ってしまって、その日は一日中何を描こうかと考えていたようだが。

 

やっと決まって、再度夫に告げたところ、

 

「お前はバカなのか」

 

と罵られて

 

「そんな誰にでも思いつくようなものを描いたってつまらない」

 

と難癖をつけた。

 

ポスターって大抵はもう既にアイディアとして似たようなものが出ているから、ありきたりになってしまうことは多々ある。

 

でも、幼い息子が自分なりに考えてその題材を選んだのなら、その後をサポートしてあげれば良いのだと思う。

 

どういう風に描くのかを決めるのにも時間がかかるだろうから、フォローしてあげれば良いのに。

 

夫に対してそんな優しい対応を求めても無駄だということは分かっている。

 

だから、私が仕事や家事の合間に相談に乗って(と言っても、助言らしい助言はできないのだが)何とか仕上げた。

 

そうやって苦労して描き上げたポスターが、校内で表彰された。

 

低学年だから、色塗りも決して上手とは言えない。

 

でも、思わず見入ってしまうような仕上がりだと思うのに、夫は満足しなかったようだ。

 

表彰されて嬉しかったのか、その日息子はいつもよりもかなり早く帰ってきて、

 

「これ見て!」

 

と表彰された人がのっている用紙を夫に見せた。

 

しかし、それを見るなり夫は投げ捨てた。

 

「こんな表彰を受けたくらいで、いい気になるな!」

 

という捨て台詞と共に。

 

褒められると思っていたのに、まさかこんな風に叱られるなんて思ってもみなかった息子はすっかりしょげてしまい、私が帰った頃には静かにじっと膝を抱えて座っていた。

 

その様子を横目で見ながら、夫がその紙を拾って私に見るように促し

 

「あいつ、こんなのもらったくらいで調子に乗ってるんだ」

 

と言った。

 

 

 

 

『あぁ、そういうことか』と理解し、息子の気持ちを思って胸がギューっとなった。

 

またこんなことで傷つけるなんて。

 

何度も何度も繰り返されるこのような出来事が、息子を深く傷つけている。

 

傷つけた当の本人である夫は何も感じていなくて、改善できないお前らが悪いという態度を崩さない。

 

人を傷つけても何も感じないような夫を、私は軽蔑せずにはいられなかった。

 

褒められたら誰だって喜ぶでしょう?

 

ましてや子供だよ?

 

夫がお風呂に入っている時に息子に

 

「頑張ったね!すごいよ!」

 

と声を掛けたのだが、

 

「こんなので喜ぶなって怒られちゃった」

 

とションボリしていた。

 

何とか元気づけようと

 

「喜ぶのは当たり前でしょ?!ママだったら嬉しくって踊り出しちゃうよ」

 

と言ったら、息子が

 

「本当?」

 

と聞くので

 

「本当だよ。嬉しすぎてみんなに言いたくなっちゃうよ」

 

と答えた。

 

実は近所の同級生のおばあちゃんにも帰り際に声を掛けられて

 

「すごいね!」

 

と言ってもらえたらしく、褒められて照れ臭かったけど嬉しかったのだそうだ。

 

ご近所さんでもこんな風に声掛けしてくれるのに、父親がこんな態度を取るとは………。

 

この件では心底呆れてしまったが、それでもまだ変わってくれるのではないかという希望を捨てられなかった。