最近はもう夫と息子が直接話さないようにしているのだが。

 

以前は電話がかかってきて『代わって』と言われると、代わってしまっていた。

 

あの頃はまだ夫からの恐怖の支配によって抗うことが悪なのだと感じていたし。

 

勝手に家を出てしまったことに後ろめたい気持ちもあった。

 

だから、せめて少しでも夫の要望を聞き入れて怒りを鎮めようなどと考えていた。

 

今となっては、それが間違いだったのだとハッキリ分かる。

 

でも、当時は分からなかった。

 

私に拒否権はないのだと思い込んでいたあの頃、周りは私たちの言動に違和感を感じていたようだ。

 

せっかく家を出ることができたのに、なぜそんなに夫のことを気にするのか。

 

本当は戻りたいと思っているのではないか、とさえ思ったという。

 

もし、そういう風に見えていたのだとしたら、それはひたすら怖いと感じていたからに過ぎない。

 

自分に自信がなかったことも大きい。

 

息子も常に自信なさ気でビクビクしながら行動していた。

 

それを見た兄は怒り心頭で、

 

「ぶん殴ってやりたい」

 

と言った。

 

息子は今もフラッシュバックで硬直したり、怖い夢を見ている。

 

私も悪夢に悩まされることがあり、100%回復するにはもうしばらくかかりそう。

 

手探りで心身の回復に努めている中、あることが発覚した。

 

私たちが家を出て、実家に居ることを知られてしまい、仕方なく電話に出るようになった頃。

 

夫はいつも息子に

 

「お父さんを見捨てないでね」

 

と言っていたらしい。

 

毎回電話の終わりにはそう言うので、息子の根っこの部分にその言葉が強く植え付けられてしまった。

 

だから、離婚することを告げた時あんな風に泣いたのか。。。

 

自分もまだ夫からのコントロールが抜けきらないと自覚している部分があり、この件を上手くフォローすることができなかった。

 

何て言ったら良いのかが分からなかったし、『確かに見捨てることになるのかも』という気持ちを今でも拭い去ることができない。

 

 

 

 

でも、家族と話していた時にこの考えは間違いだと指摘されてハッとした。

 

両親はただ

 

「そんな風に考えることは無いんだよ」

 

と言うだけだったが、兄が

 

「見捨てるも何も、ただ別々の道を行くだけだ」

 

と言った。

 

「見捨てるって、それじゃあまるでお前らが居ないと生きていけないみたいじゃないか。それは相手にも失礼だ」

 

と。

 

『元々一人で暮らしてちゃんとやっていたんだから、そんなはずはないんだよ』と言われると確かにそうなのかもしれない。

 

この言葉を聞いて、私の中にあった罪悪感が明らかに小さくなった。

 

息子も同じだったようで(深く理解しているかは分からないが)、

 

「そうだよねー。お父さんは大人だから僕が居なくても平気だよねー」

 

と納得した様子。

 

これで息子の中にある呪縛が解けると良いな。

 

どうしてあんなに虐待をしておいて将来の面倒を見て欲しいなんて言えるのだろうか。

 

私なら絶対に言えない。

 

相手の気持ちを考えずに、自分の欲求だけを満たそうとするからそういうことになるのだ。

 

その日は、息子は夜の儀式をしなかった。

 

いつもは寝る前に、ぬいぐるみを夢を食べるバクに見立てて

 

「怖い夢を見たら食べてね」

 

と言いながらギュッと抱きしめるのだが、

 

「今日は大丈夫な気がする」

 

と言い、本当にそのまま朝まで熟睡した。