終業のチャイムが鳴った後に上司のところに行き、やっと言うことができた。
「今日じゃなくて良いので、ちょっとお時間いただけませんか」
たったこれだけのことを言うのに、一体何日かかってるんだ………。
今回はお金のことが絡むので、余計に気を遣ってしまう。
会社だって、すぐそばに家があるのにそんなに高い交通費を払うなんて納得がいかないかもしれないし。
また悪い癖が出て相手の反応なんかも想像しながら言ったものだから、余計に緊張してしまった。
ここまでは大体予定通りに進んだのだが、想定外だったのはパワハラ社員が近くに居たこと。
その上司が査定をするので、日頃からパワハラ社員は自分の点数稼ぎをするためによく報告に行っていた。
その日もどうでも良いことを報告に来て、私が『時間を作って欲しい』と言っているのを聞いてしまった。
内容まで話していないし、上司もその時点では把握していない。
それなのに、パワハラ社員は勝手に勘違いして怒り、
「俺のことを告げ口しようとしている!」
と騒ぎ始めた。
勝手に一人で勘違いしている分にはこちらに影響はないが、よりにもよって上司に
「私の評価を落とそうとして企んでます!」
と言いに行き、勝手に大事にしていた。
まだ内容を知らされていない上司は
「まあまあ、落ち着いて。君のことじゃないと思うよ」
と落ち着くように促していたが、闘牛の牛のように猛烈な怒りに支配されたパワハラ社員は今にも殴りかかりそうな勢いだった。
でも、ご存じの通り私は夫との生活によって大声や大きな音、怒鳴っている人が極端に苦手になり、平静を装うことができない。
正面から受け止めていたら怖くてドキドキしてしまい、自然に体が震えてしまうので、その場を離れた。
そうしたらパワハラ社員が追いかけてきて、
「言いたいことがあるなら直接言えよ!」
とか言い始めて、
「言いたいこととか別にありません………」
と返事をしているのに
「卑怯なんだよ」
と言って、
「やんのか、コラ!」
と大声を出した。
机を二つ挟んだ向こう側だったが、もうこのあたりで限界になり、パニックになって動けなくなった。
その時、いつもはスルーしている上司が間に入ってくれて
「お前!今のはダメだよ!」
と大声で怒ってくれて(実は上司の大声にも内心驚いてしまったのだが)、
「これ以上騒ぎ立てるのなら、それなりの対処をさせてもらうから」
と言ってくれた。
それで急に大人しくなり、
「申し訳ありませんでしたっ!」
と謝っていた。
それに対して上司が冷めた対応をしていたら
「土下座すればよろしいですか?!」
と言い始めて、もうかなりの大騒ぎだったことは間違いない。
何だろう、この人。
会社の上層部とか権力のある人にはおかしいほどペコペコするんだな。
流石に土下座は止められたけど、もし『土下座しろ』と言われたらやりかねない。
こういう面倒くさい人たちになぜか目を付けられることが多くて嫌になっちゃう。
相談すれば交通費を何とかできるだろうか、と緊張していたが、この騒ぎで全部吹っ飛んでしまった。