実家での生活は本当に穏やかで、時間がゆっくりと流れているような気がする。

 

これまでの日々は時間に追われ、あっという間に過ぎて行った。

 

忙しい中で最も重要だったのは、夫の機嫌を損ねないこと。

 

顔色を伺いながら息を詰めるような生活を送っていたら、いつの間にか自分の意見も言えなくなっていた。

 

そんな風に気を遣って生活していても、地雷はどこに転がっているか分からない。

 

大丈夫だと思ったことが逆鱗に触れたり、訳も分からず怒鳴られることもあった。

 

私は人がため息をつくのを見るのがとても苦手だ。

 

そばでため息をつかれると、まるで自分が責められているような気分になってしまう。

 

もっと苦手なのは、大きな音。

 

ドアをバタンと閉めたり、お皿をガシャンと置いたりする音。

 

大きな音が聞こえると飛び上がるくらい驚いてしまうのだが、それは会社でも同じ。

 

ドアを乱暴に閉める人が居て、バタンとなるたびに体がビクッとなる。

 

そして、その方向に意識が集中してしまう。

 

今は実家でみんながのんびりしているので、そんな音がすることもないし誰も怒鳴らない。

 

兄や兄の奥さんも穏やかな人なので、本当に気持ち的に落ち着いている。

 

去年の年末は酷かったな。

 

本当は実家に帰省したかったのだが、夫や義父からの圧が強くて言い出せなかった。

 

これまでも帰れたことは無かったから諦めてはいたけれど、実際に帰れないことを悟った時は落胆した。

 

『まさか年末年始の一番大事な日に帰らないよな』

 

『年越しは家族で過ごすものだ』

 

そういう圧をかけてくるので、機嫌の悪い夫と過ごさざるを得なかった。

 

息子だけでも実家にやれないかと交渉したが、返事は『No』だった。

 

仕方が無いからできるだけ楽しく過ごそうと思ったのに。

 

いつもは仕事と家のことで忙しいからゆっくりしながら美味しいものでも食べようと思ったのに。

 

大掃除をしていたらキレられて、息子が書初めの宿題をやっていないと怒鳴られた。

 

大掃除なんてもっと早くやれというが、仕事をしながらだと難しい。

 

週末に普通の掃除をしているだけで煩いと言われて機嫌が悪くなるのに、どのタイミングでやれと言うのか。

 

書初めだって、年末にやっていないからと怒るのはおかしいんじゃないの?

 

 

 

 

色々と言いたいことはあったが、6帖の小さな部屋で体の大きな夫が怒鳴り散らす姿はとても恐ろしくて、早く収束させたいという気持ちが強くなり、いつも通りご機嫌取りをしてしまった。

 

ちょっと暴れただけで恐怖に震えて、何も手につかなくなった。

 

たとえ、その手や足が私たちには当たって居なくても。

 

ひとしきり暴れた後、今度は舌打ちと暴言が始まり、このままではいけないと息子を連れて慌てて外に出た。

 

「買い物に行ってくる」

 

と告げたが、それに対しても

 

「ふざけやがって」

 

とか

 

「いつもそうやって逃げやがって」

 

と言われて悲しくなった。

 

やっぱりこんな年末だったよ。

 

今頃実家には兄たちも集まってワイワイやっているんだろうな。

 

そんな想像をしたらまた悲しくなった。

 

まるで自分たちだけが世界から取り残されているような感覚。

 

息子と私は二人ボッチで、買い物が終わったらまた鬼のような形相の夫が待つ家に帰らなければならない。

 

こんな年末をずっと続けてきたわけだが、今は遠い昔のように感じる。

 

辛いことがたくさんあっても、もう私の人生は夫に支配続けられるのだという諦めがあった。

 

それがこんな風に楽しく穏やかに過ごせるなんて。

 

幸せで、有難くて、言葉にできない。

 

息子も同じような気持ちのようで、最近ことあるごとに『ぼく、幸せ』と言う。

 

それを聞くたびに父や母は目を細めて、更に甘やかしている(笑)

 

これまで色々な人が私に勇気を与えてくれたから今があるのだと思う。

 

どうか今辛い人たちにも、穏やかな未来がやってきますように。