夫と連絡が取れなくなってから数週間。
何て言おうかと考えていたら、時間だけが過ぎてしまった。
父や母、息子に伝えた時の落胆する反応を想像したら言えなかった。
でもきっと、普段と様子が違っていたので母は気づいていたように思う。
一緒にお皿を洗っている時、寝る前にお茶を飲みながら話している時。
それとなく話をふられたが濁していた。
でも、これ以上隠しておくことはできない。
そう思って覚悟を決めて、食後にみんなでゆっくりしている時に
「ちょっと話があるんだけど」
と切り出した。
話し終えた後の反応は意外にも冷静だった。
「やっぱりね」
とか
「まだ何故連絡が取れなくなったか分からないよ」
とか、落胆した様子ではなかったことに安堵した。
息子はというと、『それの何が大変なの?』という感じでいまいちピンと来ていない。
連絡が取れないということは、怖い思いをしないのだから良かった。
そう思っているようで………。
そうか。
そうだよね。
息子にとっては、会えない=良かった なんだよね。
連絡が取れなくなることは息子にとって問題ではない。
大人たちから見ると、離婚の手続きが遅れてしまうので焦りを感じるのだが。
よく考えたら、その間に私たちが新たな被害を受けないで済むと考えれば良いのかも。
そう思ったら少しだけ気持ちが楽になった。
そもそも、夫との離婚がスムーズにいくなんて最初は思っていなかった。
この間の反応が前向きだったので、『もしかしたら』という欲が出てしまっただけだ。
これまでの対応を見ていると本当に事が進むまでは安心できないのは当然のことで、これからも一つ一つ対処していけば良い。
スムーズにいきすぎたら、かえって不安なこともあるよね。
話し合いの時の私は、決して冷静ではなかった。
今日決着をつけなければ、とそればかりを考えて夫の気持ちをくむこともしなかった。
それなのに、あんなに離婚を避けていた人が驚くほどすんなりと応じてくれたことに驚いて夢を見ているようだった。
まだ良心が残っていたのだと大喜びしてしまった。
結局、今回も詰めが甘かったということ。
でも、音信不通になったことを話せたことでようやく気持ちの切り替えはできた。
ただ、このまま黙って待っているわけにはいかない。
その後も夫に電話をかけ続けた。
義父の携帯番号も知っていたのでそちらにもかけたが一向につながらない。
用事が無い時でもあれほどしつこく電話をかけてきた夫が、何の音沙汰もないなんて。
嫌な予感がして、あの日のことを思い出していた。
家を飛び出した日、暴れて『死ぬ!俺が死ねばいいんだろ!』と叫んでいた夫の姿が脳裏によみがえった。
私たちが居なければ、生きている意味がないと言った。
でも、私たちはあなたのサンドバックじゃない。
そう思って、縋る夫を振り切って家を出たのだが。
家を出てからも、もし夫が最悪の選択をしたらどうしようと怯えていた。
そうしたら私のせいだ。
最後まで寄り添わなかったから。
こんな考えは間違っていると思っても、どうしても浮かんできてしまう。
夫が絶望して思いつめているような想像をすると、やっぱり心が痛い。
正直憎しみだってあるのに、心が痛いなんて。
こんな同情のような気持ちをどこかに捨ててしまいたい。