離婚することが決まり、あとは夫が引っ越すのを待って書類関係も相談しながら進める予定だった。

 

待っている間も夢のような気持ちで、ソワソワしたりちょっと罪悪感を感じたりした。

心配事が無くなるというのはこれほど清々しい気持ちなのかと感激もしていた。

 

これまでは気づかなかった小さな幸せにも感謝して、良いことがあったのだからこの幸せを誰かにおすそ分けできたら良いな、と思ったりもした。


あの話し合いの日、私は興奮して母に喜びの報告をした。

 

報告を聞いた母も飛び上がらんばかりの喜びようで、次の週末は皆で久々に外食した。

 

レストランで美味しいご飯を食べながら、息子にも大まかなことを報告した。

まだ子供だからどこまで話したら良いかが分からないのだが、息子にも聞く権利はある。

 

きっと大喜びするだろうな。

 

だって待ちに待った本当の意味で解放される日がやってきたんだから。

 

そう思いつつ、言葉を選びながら伝えた。

 

この時、息子がどれほど喜ぶかを想像してドキドキした気持ちだったのだが、その反応は予想外のものだった。

 

伝え終えると息子は目に涙をじわーっと溜めて、瞬きをするとポロンと落ちた。

「悲しいの?」

そう聞いたのだが、息子は少し笑いながら

「分かんない」

とだけ言った。

結局その時はなぜそんな反応をしたのかを聞くことができず、驚きと戸惑いを感じながら食事を済ませた。

 

父が運転する車で帰っている最中も、息子のことが気がかりで仕方が無かった。

 

もしかして離婚することに反対だったの?

 

だってあんなに虐待されたのに。

 

それでも父親と一緒に居たいっていうこと?

 

考えれば考えるほど混乱して、息子の気持ちが分からなくなった。

 

でも、しつこく聞くこともできなくてそのままになってしまったのだが………。

後で父がこっそり息子と話したそうだ。

 

その時に息子はこう言った。

「もう怖い思いをしなくて済むのはスッゴク嬉しい。でも、お父さんは悲しいんだよね?僕が幸せになれるのは、お父さんが悲しい思いをするからでしょう?」

あれほど酷い仕打ちをされたのに、どうしてこんな風に考えられるのだろう、と感心してしまった。

 

 

 

 

子どもは親を選べない。

 

どんな人でも無条件に求めてしまうものなのかもしれない。

もしかしたら、幼児の頃までのほんの少しの温かな思い出を覚えているのかな。

父は息子の優しさや葛藤を知り

「違うよ。お父さんは○○(息子)ちゃんが幸せになることが一番嬉しいんだよ」

と伝えたそうだ。

 

すると息子は

「それ、本当?」

と聞き、

「当たり前でしょ。お父さんやお母さんは、○○(息子)ちゃんが一番大事なんだから」

と言われると、やっと穏やかな笑顔を見せた。
 

あんな父親に対しても『幸せでいて欲しい』という気持ちを持てるなんて。

 

私とは大違いだ。

 

確かに穏やかに生活していって欲しいが、これまでにしてきたことを考えると少しくらい大変な思いをしても仕方がないと思っていたのに。

 

息子の話を聞いて少し反省してしまった。

 

こういう優しさを持つ息子を誇りに思う。

 

でも、これからはちゃんと息子自身が幸せになるような選択をして欲しい。

 

私も全力で息子を幸せにしてあげたい、と強く思った。