12月に入ったというのに、息子からはまだ欲しいものを聞けていない。
今年からはサンタさんからではなく母からだということを堂々と言えるようになったのは良いのだが。
何度か早く決めるように言っているのに、一向にリクエストをしてくれない。
「もし人気のある商品だったら、売り切れちゃうかもしれないよ?」
そう急かしても
「たぶん大丈夫」
と言うし、
「学校のお友達はどんなものをお願いするって?」
と質問すれば
「ゲームの人が多いみたい。僕は別に今はいいや」
と言う。
結局何が欲しいのかが分からないまま時間だけが過ぎてしまい、親たちは非常に焦っている。
父や母だけでなく、兄まで買ってくれると言っているのに。
息子はどこか他人事だ。
息子は早生まれで、今年の誕生日までは父親と過ごしていた。
あんな父親でも特別な日を祝おうという気持ちはあるらしく、『プレゼントは何が良いか』と質問される。
そうすると、息子は考えて考えて夫が納得してくれそうな返事をしようとする。
何が正解かが分からない時には、恐る恐る『○○の本?』等と聞いてみるのだが。
万が一それが夫のお眼鏡にかなうものではなかったら、途端に機嫌が悪くなって
「もうちょっと考えろ!」
と怒鳴られることも珍しくない。
それだけならまだ良い。
「お前がそんなんだから、もう買う気が失せたわ!」
と言いがかりをつけて、プレゼントするのを止めてしまうこともあった。
そういう時は、お祝いさえしてもらえない。
私が用意しようと画策しても、どうせ夫に阻止されてしまうから。
いつしか二人とも、こういう状況になったら『何もしない』を選択するようになった。
自分でお祝いはしないとキレておきながら、『キレさせたお前が悪い』と難癖をつけて更に八つ当たりをしてくるので質が悪い。
可哀そうに、息子はせっかくの誕生日だというのにお祝いもしてもらえず。
何日も無視をされてご飯も喉を通らない状態になる。
『正しい答えを言わなければ』
そうプレッシャーをかけられるのが日常だった。
だから息子も『何が欲しい?』という質問をされても、本当に分からないのだと思う。
これまで自分の気持ちを考えて答えたことが無かったから。
怒られないようにするのに精一杯で、何が欲しいかなんて考えたことも無かったのだろう。
それが今、急に自由になって、
「何でも欲しいものを言っていいんだよ」
と周りの皆が言ってくれる。
そんな状況に息子は戸惑っているように見えるし、一生懸命自分の気持ちを考えている様子も見受けられる。
この間、ポツリと
「ぼく、何が欲しいのか分かんない………」
と言っていたが、これが真実なのだ。
自由に考えて選択するという経験をしてこなかったのだから仕方がない。
でもね。
もう君の選択を邪魔する人はいないんだよ。
思ったことを言っていいんだよ。
それがもし無理だとしても、その時は一緒に考えよう。
それで、話し合って納得のいく答えを見つければ良いんだから。
これまでに受けた虐待の影響が、本当に色々なところに出ているのだと改めて実感した。
他の子たちと同じように、大人の顔色を伺うことなく自分の欲しいものを言えるようになって欲しい。
こんな風にしてしまったのは私たちだけど。
周りに何も求めない、要求しない。
そんな姿を見ていると切なくなる。
心に刺さった棘を一本残らず抜いてあげたい。