案の定、話し合いは膠着して何も決まらないまま時間だけが過ぎて行った。

 

途中で夫がメソメソと泣き始めてからは、何も悪いことをしていないこちらが何となく申し訳ない気持ちになり。

 

それが作戦かもしれないのに、強く言うことができなくなった。

夫の友人は、そんな私たちのやり取りを見ていて何か思うところがあったのだろう。

 

ポツリと

「もうここまで来たら、元には戻れないと思うよ………」

と言った。

 

その時の友人の様子はとても苦しそうで、夫のために悲しんでいることが私から見ても分かった。

 

長い付き合いだから、そう言うのも辛かったのだと思う。

 

それでも言わなければならないと思ったのかもしれない。

 

私にとっては、思いがけない助け舟だったが。

 

夫の方は………。

 

最後まで味方をしてくれると思っていた友人の思いがけない言葉に酷く取り乱した。

「そんなこと言ったって、じゃあ俺はどうしたら良いんだよ!」

そう言いながら、夫は頭を抱えた。

 

この後の夫の言葉はどれも本心だったように思う。

「二人になら、何をしても許されると思った」

「このあたりで止めないとマズいっていうのは分かっていた」

「段々と感覚がマヒしてしまい、エスカレートしてしまった」

「俺が辛い時に無邪気に過ごす息子を見ていたら怒りを止められなくなった」

その後も色々なことを泣き喚きながら弁明していたが、途中からは、もう耳に入って来なくなった。

目の前に居るのに、まるで夫と友人が並んでいるそのスペースは私とは全く別の場所にあって。

 

それを遠くから眺めているような気持ちになった。

 

 

 


ああ。

 

やっと私は夫の本心を聞けたんだ。

 

今まで何を考えているのかが分からなくて、戸惑ったり迷ったり悩んだりしてきた。

 

でも、それも今日でおしまい。

 

やっていることがどんなに酷いことかを分かっていて、それでも止められなかったんだね。

 

夫が並べ立てた言葉は、どれも独りよがりでこちらのことなど全く考えてはいなかった。

 

夫の勝手な都合であって、私たちには何の非も無いのに。

 

どうして我慢して夫を受け入れるなどと都合の良いことを考えることができたのだろう。

一緒に居る間は終始苦しくて、ずっと辛くて二人とも生きる希望を無くしかけたんだよ。

私は夫が都合の良い自分の気持ちを泣き喚きながら話す間、黙って聞いていた。

 

立て続けに発するので口を挟めないというのもあったが。

 

病気によって止むを得ず出た言動ではなく、全て甘えからだったというのはとてもショックだった。

 

本当は夫が最初に息子を虐待した時に離れるべきだったんだ。

 

病気のせいだから、いつか治って息子にも優しくしてくれるなんて。

 

そんな未来はやってこないのに、愚かな私はすがってしまった。

 

普通の家庭を夢見て、そこに私たちを当てはめようとした。

 

『普通』に一番こだわっていたのは、私自身なのかもしれない。