久々に対峙した夫は、やはり相変わらずだった。
『話し合いたい』と言ったらすんなりOKしたくせに、無理やり来させられたみたいに機嫌が悪い。
息子が来ていないことも大きかったのかも知れないが、それは仕方のないことだ。
会いたくないと言われるようなことを散々してきたのだから。
きっと息子が会ってくれないのも私のせいだと思い込んでいるだろう。
向かい合って最初の2~3分は空気が重く、誰も話し始めようとはしなかった。
こんな時に夫の友人が何か助け舟を出してくれないかな、と思いチラっと見たら、彼も緊張しているようだった。
重苦しい空気の中、最初に声を発したのは夫だった。
「それで、どうしたいの?」
と単刀直入に聞かれたので、こちらも正直に
「離婚したいと思ってる」
と伝えた。
ブログには何度も書いてきたが、夫に言うとなると酷く緊張した。
声が震えて、その場でキレられるのではないかと、何もされていないのに思わず身構えてしまった。
私の表情がより硬くなるのを見た夫が、ヘラヘラと笑いながら
「またそっちの都合ばっかりなんですね~」
と言ってくるのが腹立たしい。
こちらで助言を頂いた通りに録音して臨んでいたので、後から聞き直して何度もこのふざけた口調を聞いてしまった。
今まで馬鹿にしてきた私とこんな話し合いをすることさえ、夫のプライドが許さないのかもしれない。
でも、もしかしたらこれが最後になるかもしれないから、きちんと本当の気持ちを聞かせて欲しいと思った。
いつも人を見下して相手の非を攻撃し、自分が一番正しいと信じて疑わない夫。
常に自信があって、病気になる前まではあらゆることを上手くやっていた。
こんな性格なのに外面が良いから、職場でも頼りにされていたし、友人もこうして駆けつけてくれる。
でも、本当に一番傍にいた人たちのことは傷つけてきたんだよね。
これまでは、夫に何か言われたりされるたびに腹立たしい気持ちが100%だったけれど。
こうして改めて向き合ってみると可哀そうな人だとも感じた。
虚勢を張ることでしか、自分を保てなかったのかな、とか
こんな大事な場面でも腹を割って話すことができないなんて。
この先もこの人は大切な人に心を開くことができないだろうな、とか。
色んな思いがグルグルと頭の中で浮かんでぐちゃぐちゃになった。
後からこの時のやり取りを聞き返してみて、一つ気づいたことがある。
もしかしたら、夫はこの問題に向き合うのが怖かったのかもしれない。
その証拠に、いつも自信満々だった夫の声がところどころ微かに震えていた。
私にも問題が無かったわけではない。
一番の問題は、何でも許してしまったこと。
何があっても無条件に夫を許し、私が折れてきた。
でも、今は夫のことを許さないと言い、目の前から去ろうとしている私を見て、明らかに夫は動揺していた。
長年虐げられて私たちが考える気力を失っていたから無抵抗だったというのもあるが。
それ以上に、いつか夫が治るだろうと信じて許してしまったというのが大きい。
これまでのことを考えたら、見捨てられることなど考えたことは無かったのだろうと思う。
許してくれるからと言って、その相手を傷つけるようなことをしてはダメなんだよ。
どんどん気持ちが離れていってしまうから。
そんな簡単なこと、子どもでも分かるのに夫は理解しなかった。
許してくれるのを良いことに、いつしか私たちの悲しみや苦しみからも目を背けてきた。
最初のうちはほんの少しだけあった気遣いも無くなり、自分の気持ちだけを優先して行動するようになった。
本当は気づいていたくせに、『離婚』という言葉が出てきた途端に夫はうろたせる素振りを見せた。
そして、想定外だといわんばかりに話を切り上げようとした。
何度も頭の中でシミュレーションをしてきたので、そんな夫の態度にも動じずに私は話を続けた。