こっそり見に行った我が家は以前と変わらぬ様子だった。

 

義父がまるでそこの住人のように暮らしていることに多少のショックを覚えたが、夫が一人ボッチではないことに安堵した。

 

あれだけ虐げられてきたのに、まだ夫の心配をするなんて。

 

自分はどれだけバカなんだろうと思う。

 

こんな風に甘いから、きっと夫からあんな仕打ちを受けることになったんだ。

 

大切な息子を傷つけられたことは決して許せない。

 

これからも許すことは絶対に無いのに。

 

相反する感情が私の中にはあって、それを消化しようとするのに酷く苦しんだ。

 

夫が可哀そうだと思うことを、息子に対して申し訳なくも思っていた。

 

きっと息子にしてみたら、ちっとも可哀そうなことなんてなくて。

 

今後一生会わなくてもいい存在なのかもしれないのに。

 

複雑な気持ちで我が家のベランダを見ていると、二枚目の毛布を手の平でパタパタと叩いて取り込もうとしている義父と目が合った気がした。

 

私は慌てて身を屈めて我が家の方を見ていたが、義父はずっと動かない。

 

動かないというよりも、こちらを見ているような気がする。

 

私は目がとても悪いのだが、義父はとても良くて裸眼でも遠くまでよく見える。

 

だから、もしかしたら見つかってしまったのかもしれないと慌てた。

 

呼吸まで聞こえることはないのに気が付いたら息を止めていて、その場から動けなくなった。

 

少しでも動いたら今度こそ本当に見つかってしまう気がして。

 

ドキドキしながらもその場で様子を伺っていたら、義父はその後も2~3分ほど体を左右に動かしながらこちらを見ていた。

 

途中で部屋の方を一度振り向いて、再びすぐにこちらに目を向ける。

 

その直後に夫も出てきて、私は更に慌てた。

 

この状況は非常にマズイのではないだろうか。

 

もう見つかるのを覚悟の上で走って逃げた方が良いんじゃないのか。

 

そんなことを考えていたが、夫の姿を確認したらいよいよ体が動かなくなった。

 

先程までは『良い思い出もあったよな~』なんて考えていたのに、姿を見てしまったら恐怖で体中から汗が噴き出てくるのを感じた。

 

手足が震えて力が入らなくなっていたので、どうせ走ったところで全力で逃げるなんてできっこなかった。

 

(何で家を見に行こうなんて考えちゃったんだろう。馬鹿なことをしたな………)

 

自分の浅はかな行動にとても後悔したが、もう遅い。

 

いつも思いつきで無計画に行動するから失敗しているのに、まだ私は学習できていないんだな。

 

 

 

 

その直後、一本横の道から見慣れた人が歩いてくるのが見えた。

 

義母だった。

 

こちらの様子に気づいている様子のない義母は、ベランダに出ている夫と義父に気づいたようで、にこやかにそちらに向かって歩いて行った。

 

義父ほどは目が良くないのだが、私と家の距離の半分くらいの場所まで到達するとハッキリと二人の姿を確認できたようで、笑顔で二人に手を振った。

 

そうか。

 

これから義母が来ることになっていたのか。

 

駅に着いたという連絡をもらっていたから、『そろそろ到着する頃だ』と思って見ていたのかもしれない。

 

助かった~。

 

ホッとして全身の力が抜けていくのを感じた。

 

緊張感から解放された後は、必死で駅まで走った。

 

一瞬でも『見つかってしまったかもしれない!』と感じた時の恐怖は言葉には表せないくらいの衝撃だった。

 

息が切れて苦しくなっても走り、途中で足が痛くなってもとにかく駅に急いだ。

 

早く帰ろう。

 

息子とはこちらの駅で待ち合わせで、もうすぐ来る。

 

そうしたら、すぐに実家に帰ろう。

 

家を見に行ったことで分かったことは、自分の居場所がなくなったということ。

 

でも、それは私たちが手放したものであって、夫が望んだ状況ではない。

 

そんなことは分かっている。

 

自ら手放した場所なのに、目の当たりにしたら何だか悲しかった。

 

ほんの少しだけあった楽しい思い出まで失ったような気がした。

 

こんな風に思うのも共依存なのかな。