次の日、定時近くになってくると私はソワソワして仕事が手に付かなくなった。
勝手に約束させられてしまったことで思い悩み、憂鬱で憂鬱で仕方がなかった。
今は義父も夫とうちに居る。
だから、義実家にいるのは義母と義弟だけだ。
義弟のことは苦手だが、夫や義父と顔を合わせるよりはマシだと思う。
悶々と考えつつも、『あれが夢だったらなー』などと現実逃避しているうちに終業の時間を迎えた。
この頃の私は夫に歯向かうことがとても怖くて、言う通りにしないのは悪だという考えがしみついていた。
もしそれで何かあったら全部私のせいで、夫に迷惑をかけてしまう、と。
夫はよく
「責任取れるの?」
と言っていたのだが、そう言われると更に弱気になって言う通りにした方が安心だと感じていた。
何も自分で決められない大人は周りにとって迷惑だと思うのだが、そうなっていたと思う。
義実家に行けと命令されたら行くのが当たり前。
いつもならそうなのだが、この時は私の心が抵抗していた。
行くなんておかしいと。
いつも通りの帰り道を歩きながら、ふと目をやると電車が見えた。
義実家に向かう電車は、ホテル近くの駅からも出ている。
このままホテルに向かって昨日と同じ平日を過ごすのか、それとも義実家に行って義母に声をかけるのか。
電車を何本か見送りながら考えた。
たくさん考えて出した答えは、ほんの少しだけ顔を出してすぐに帰って来よう、というものだった。
ちょっとした差し入れを買って顔を出し、今回のこともこっそり謝りたかった。
夫や義父から理不尽な対応をされた時、義母には何度か助けてもらったこともあったからだ。
基本は義父に従っているのだが、実は義父や夫の行動は非常識だと分かっているのではないかと感じる節もあった。
それを言葉にできない義母がまるで私のようだと感じて、無視できない気持ちもあった。
そうと決めたら、できるだけ早くホテルに戻ってくるために急いで電車に乗り込んだ。
本当は義実家までの往復の交通費を出すことも厳しい。
でも、やっぱり苦しんでいるのは可哀そうという気持ちが出てきてしまう。
孫にも会いたいだろうな。
でも会わせてあげることはできないから、せめて………。
色々なことを考えながら電車に乗っていたら、ふと義父のことが気になった。
まさか私が顔を出すのに合わせて義実家に戻ってはいないだろうか。
もしそうなら、私に家に戻るように説得することは確実だ。
方向性や程度は違えど、間違いなく夫と義父は同じようにモラハラの気質を持っている。
今回のことも私が虐待だと騒ぎ立てるのは大げさだというスタンスだったので、一方的に騒ぎ立てて孫を連れ出されたという雰囲気になっていた。
「○○(息子)ちゃんは父親と離れたいなんて思ってないよ」
そう決めつけで言われた時には絶句したが、あれは義父の本心だ。
電車を降りた後、不安に感じながらも義実家へと向かった。
家の前まで到着して様子をうかがってみたが、誰の声も聞こえてこない。
もしかして誰も居ないのかな?
留守だったら無駄足だったな、なんて考えながらインターフォンを鳴らそうとしたら、背後から声をかけられた。