今日は色々なことがあり過ぎた。

 

必死で逃げてきてしまったけれど、夫があっさり諦めるとも思えない。

 

明日からまた私たちを連れ戻そうと画策するだろうし、義父母も夫のために奔走するだろう。

その頃はシェルターの存在も知らず、ただただ自分たちで乗り切らなければならないと思っていた。

 

家族の問題なのだから家族で解決しなければ、と。

 

しばらく窓から見える外の様子を眺めた後、座ったまま寝てしまった息子をそっと抱えて横にして上掛けをかけて、揺れないように気を付けながらベッドの端に座った。

 

やはり電話が気になる。

 

確認すべきなのか、それとも見ないでやり過ごすか。

本心としては見たくはないが、いつかは見なければならない。

 

寝る前に見てしまって眠れなくなるのも嫌だが、息子の前で確認して不安にさせるよりも、今この場で見て明日は何事もなかったかのように振舞った方が良いのではないか。

どれほどの連絡が来てるのかと考えてしまうと、怖すぎて眠れないというのもあった。


思い切って部屋の入口まで足音を立てないようにしながら移動して、サイレントモードにしてあった電話を手に取った。

 

やはり着信が入っていた。

 

数えきれないほどの着信と共に、留守電にメッセージが入っていることを知らせるランプも点滅していた。

優柔不断な私は、ここでまた迷ってしまった。

 

聞くべきか、放置すべきか。

 

散々迷った挙句、結局無視することができなくて聞いてしまったのだが、内容としては夫の泣き落としだった。

 

 

 


「ごめんなさい(ズビズビと鼻をすする音)帰ってきてください」

という夫の声。

 

また泣いたのか………。

 

泣きたいのはこちらの方なのに。

「連絡待ってます。二人のこと、本当に大事に思ってます」

これらの言葉を何度か繰り返し、メッセージの再生は終わった。

 

以前なら夫を可哀そうに思ったかもしれないが、この時は妙に冷めた気持ちで聞いていた。

 

本当に大事に思っているのにあんな仕打ちをしてしまうのなら、この人の精神状態は相当ヤバいなと思っていた。


これで私たちが同情して許してしまい戻ったら、また虐げて自分の思うままにコントロールしようとするだろう。

 

結局のところ、本当に大切なのは自分だけなのだ。

泣きながら話す夫の声が何だか気持ち悪く思えてきて、私は留守電のメッセージを消去した。

 

着信履歴も全て消去して、携帯の電源を切った。

 

こんなに時間が経っているのに、私の手はまだ震えていた。