今日の宿を無事に確保できたのは良いが、今後のことを考えると暗澹たる気持ちになった。

 

明日からのことも考えなければならない。

 

自分から家に戻るという選択肢はないから、ビジネスホテルを転々とするか実家の父と母に相談するしかない。

ここまで来ても、やはり相談するのは躊躇われた。

 

幸せに暮らしていると思っていた方が、父と母にとっても幸せなのではないか。

でも、ビジネスホテルでずっと過ごすほどのお金も持ち合わせてはいない。

 

資金が底を尽きたら、今度こそ家に戻らなければならない。

そうなったら………。

(お金が無くなったら、もう終わりだな)

追いつめられて絶望感に支配されそうになり、慌ててポジティブなことを考えようとした。

 

でも、どうしても明日からのことが気になって不安になってしまう。

 

何だかとても疲れてしまい、ベッドに横になって天井を見つめた。

 

覚悟を決めたはずなのに、計画的に行動したつもりだったのに、私の計画は穴だらけで結局は息子を守るどころか振り回してしまった。

携帯を手に取り電話帳を開くと真っ先に実家の文字が目に入ったが、今はかけるべきではないと思い、そっと閉じた。

息子は窓から外を見ていて、

「ママ~。あの辺すごくきれいだよ。さっき通った時にいい匂いがしたね」

と無邪気にはしゃいでいる。

(そうか。夕方にポテトは食べたけど、きちんとした食事は摂っていなかったな)

落ち込んでいるはずなのに、気づいたら何だか急にお腹が空いてきた。

 

息子もお腹が空いているようで、

「レストランじゃなくてもいいから、何か買ってきて食べようよ」

と言う。

 

これは息子なりの気遣いで、お金がないかもしれないからスーパーで買ってきた方が良いのではないかと思っていたらしい。

私は頭の中で財布に残った残金を計算した。

 

今夜外で食べるくらいは大丈夫だよね?

「お外に食べに行こう!」

そう伝えると、息子の顔がパーッと明るくなって嬉しそうにピョンと飛び跳ねた。

 

 

 


いつこんな穏やかな時間が終わりを告げるか分からない。

 

だから、夫と離れている間は、せめて楽しく過ごさせてあげたと思った。

 

そもそも、息子がこんな風にはしゃぐこと自体が珍しかった。

 

産まれて物心つくようになってから、ずっと厳しい環境を強いてしまった。

 

一人暮らしをしたいと言った時も、『そんなことはできないよ』と軽く答えてしまったけれど、きっと息子が言いたかったのはそんなことではない。

 

夫の居ない世界に行きたいと思ったのだ。

 

いつも不機嫌で怒鳴り、時には叩いたり蹴ったりする父親を尊敬する子どもは居ないだろう。

 

でも、逃げる方法が無いから『一人暮らし』をしたいと言った。

 

私に話しても何も変わらないから、そのうち失望して辛いと言うことが減っていったように思う。

 

元気だった息子はいつも部屋の隅で図鑑を見ていて、表情を失った。

 

実家の両親は何も知らないから、そんな息子のことを『何だか子供らしくない』と言ったが、そうしてしまったのは私だ。