私たちは急いでホームに向かい、電車の来る方向に目をやった。

 

まだ音は聞こえてこない。

電光掲示板を見ると、あと5分は来ないことが分かった。

 

その間に義父は余裕でこのホームに到着するだろう。

相手の裏をかいて反対方向に移動するということを考えても良かったのだが、その時の私には余裕がなくて、何とか義父に見つからずに電車に乗りたいということばかり考えていた。

仕方なく息子とホームに設置されているトイレに身を潜めようと思ったが、出てきた時に出くわしたらもう逃げ場がない。

困ってあたりを見渡していると、自動販売機の周辺に死角になりそうなスペースがあるのを思い出した。

 

この場所は、以前そんなところにスペースがあるとは思わずに歩いていたら、急に子どもが出てきてビックリした経験がある。

たぶん、ここなら大丈夫だろう。

 

毎日のように使っている私でさえ気づかなかったのだから。

もう夕方というよりも夜に近いので、電車に乗ろうという人もまばらだ。

緊張と不安でドキドキしながら電車を待っていると4分後くらいにアナウンスが流れ、どうやら時刻通りに到着するらしい。

私は息子の手をギュッと強く握りしめて、声には出さずに(行くよ!)と目で合図を送った。

 

息子も黙って頷いた。

電車が到着してからも、安心して座っていたわけではない。

 

なるべく目立たない場所に移動しようと、人がたくさん乗っている車両を探した。

やはりエスカレーターの近くには人が多く乗っていたが、ここは義父が慌てて乗り込んでくる可能性の高い場所なので避けなければならない。

何となく駅員さんの近くの方が安心できるような気がして一両目の方に移動したのだが、意外にも一両目には意外と多くの人が乗っていた。

 

 

 


ここでようやくホッとして息子と二人で並んで座ることができたのだが、ふと気づくと息子はかなり強張った顔をしていた。

「ママ、おじいちゃん乗ってきたよ」

忙しくなく二両目の方を見ながら、息子が小声で囁いた。

「見たの?」

と聞くと、

「うん。間違いないよ」

と言うので、私は狼狽えて次の駅で降りるべきなのかとても悩んだ。

 

次の駅は乗降する人が少ないので、降りたらそれこそ見つかってしまうのではないか。

 

でも、このまま乗っていても、端から捜し歩いているだろう義父に見つかってしまう。

「どうしようか・・・」

まだ小学生の息子に聞いても分かるはずがないのに、思わず意見を求めた。

息子も『うーん』と唸って、また二両目の方に目をやったのだが、その瞬間

「ママ! おじいちゃんが来た!」

と小さな叫び声のような声をあげた。

恐る恐る目を向けると、確かに義父がこちらの方に向かって歩いてきていた。

 

その目は私たちをしっかりととらえ、その表情はとても険しかった。