夫が私の携帯を手に持ち、何やら操作をしているのに気付いてパニックになった。

 

もしかして、背中の写真を撮ったことに勘づかれた?

 

でも、いつもよりも気を付けていたからおかしな言動はしていないはず。

 

料理をしながら夫の様子をうかがっていたが、突然

 

「なあ」

 

と声を掛けられた。

 

やっぱり気づかれたんだ!

 

何で声を掛けられたのかも分からないのに既に酷いパニックに陥っていて、問い詰められた時のことを想像してしまう。

 

夫はそんな私の方に向かって携帯を向けた。

 

もうだめだ。

 

気づかれたんだ。

 

絶望にも似た気持ちでこの後のことを考えていると、夫は

 

「メールが入ってるみたいだぞ」

 

と言った。

 

「どこから?」

 

と返す声が震えてしまった。

 

ドキドキしながら答えていたのと、勘づかれないで良かったという気持ちと。

 

これ以上夫が携帯をいじっていたら、何かの拍子に写真フォルダが開いて見られてしまうかもしれないという恐怖と。

 

 

頑張って平静を装っていたが、この時の私の様子がとても怪しかったのかもしれない。

 

だから夫は少し怪訝な表情をしていて、でもそれを隠すように普通に接してきた。

 

「実家、何だって?」

 

料理をしている私のところまで来て携帯を手渡した。

 

そして、今すぐ見るように促すのだが、正直なところ夫の目の前で携帯の操作を平静を装いながらする自信がない。

 

そんなことはお構いなしに、『早く』と促す夫。

 

メールを開いてみると、この間のお祭りで撮った写真を送って欲しいという依頼だった。

 

なんだ。そんなことか。

 

そう思った瞬間、夫の行動に血の気が引いた。

 

「俺が代わりに送っておいてやるよ」

 

気を利かせたつもりなのかもしれないが、今そんなことをされたら間違いなく見られてしまう!

 

「いいよ。大丈夫。後で送るからさ」

 

そう言っても、

 

「遠慮するな」

 

と私の手から携帯を取り上げて、写真フォルダを開いた。

 

時系列で並ぶ写真の中に、当然のことながらあの写真が含まれている。

 

それに夫が気づかないはずもなく、見た瞬間に顔色が変わって

 

「これ何?」

 

と無表情でこちらを見つめた。

 

 

 

 

目は据わっていて、明らかに不振に思っている表情だ。

 

咄嗟にその場を取り繕おうとして

 

「この間背中に変なブツブツが出来たから、もしかして酷くなったら病院に行って説明しなきゃならないかなと思って、症状が分かるように撮っておいたんだ」

 

苦しい言い訳かもしれないが、一瞬で考えるのだからこの程度の内容になってしまう。

 

夫は信じていない様子で、

 

「ふーん」

 

と言った後に少し無言になっていて、それから

 

「でもこれ、全然ブツブツができてるの分からないよ?意味ないじゃん」

 

と言った。

 

「ほんとだねー」

 

と頷いて写真フォルダを閉じようとしたが、夫が強めの口調で

 

「残しておいても意味ないんじゃない?」

 

と言うので、仕方なく消去した。

 

実は消去しても残っていることは知っていたので、これでやり過ごせると思って、そのまま夫に携帯を渡して実家にメールしてもらうようにお願いした。

 

 

夜電気を消してから布団の中でこっそり写真をどこかに移そうと考えて、ゴミ箱を確認した。

 

だけど、いくら探しても見当たらない。

 

ゴミ箱に入るはずなのに、他の削除したものはゴミ箱に入っているのに、あれだけが見当たらない。

 

それで悟った。

 

きっと夫が削除したのだ。

 

 

決死の覚悟で撮った写真は、私の不手際によって失ってしまった。

 

次にチャンスが訪れたら、必ず見つからない場所に保管するんだ。

 

そう自分に言い聞かせてはみたが、やはりショックだった。