会社の閉鎖が言い渡されてからは、社員が路頭に迷わないようにと頻繁に休みが与えられ、それ以外にも用事があれば自由に休めることになっていた。

技術職の人たちはどんどん次が決まり、皆安心した顔でその日を迎えようとしている。

片や私はいくら積極的に活動しても一向に内定をもらえず、手ごたえも感じられなかった。

 

履歴書はもう書き慣れたと言っても過言ではないくらいにスラスラと作成できるようになっていて、応募先の情報を見ればどのようなところをアピールするべきなのかも思い浮かぶようになっていた。

それでも決まらない。

 

決まらないのだ。

私の経歴や人間性にはそんなに魅力が無いのだろうか。

 

そんな風に落ち込むこともあったが、タイムリミットが迫っていたので悩む暇もなかった。

焦れば焦るほど空回りするような状態が続き、とうとうその日を迎えた。

 

無職になった。

 

これだけでもう十分に悩ましいのに、更にモラハラ夫からの精神的な攻撃が激しくなった。

 

夫も将来が不安になるのかもしれないが、私だって頑張ってはいるんだよ。

 

心の中では反論できても、実際には

「もっと転職活動を頑張るね」

とこれ以上怒らせないように気を使った。

無職になってから1か月が経過した頃、急に夫が義両親を我が家に呼び出した。

 

何のために呼ぶのかを聞いても、どうせ「てめぇーに教える筋合いはねーよ」とか言われるので聞かない。

 

翌日、狭い6帖の部屋に大人4人が集まって、それぞれの顔色をうかがいながら唐突に話し合いはスタートした。

最初に話し始めたのは夫である。

「あのさー、これ以上こっちで探してても決まらないと思うんだよね」

その鋭い視線は私に向けられ、その後義両親を交互に見て同意を求めているようだった。

「そうよね。やっぱり今は景気も良くないから、次をすぐに決めるのは大変よね」

と義母が続ける。

 

気遣ってもらっているのかと思い、

「心配をかけてすいません。がんばりますから」

と言ったら、三人が顔を見合わせて夫が呆れたように

「そっちの我が儘で引っ越しを決められないって言ってんだけど?」

と言った。
 

 

 


その瞬間全てを理解した。

 

ああ、今日のこの集まりは義実家に引っ越すことを承諾させるためだったんだ。

夫や義両親は同居をするのがいかに楽になるかを力説した。

「家賃がかからないだけでも、だいぶ楽になるだろ」
 

「そうよ。家賃は高いもの。家賃だけじゃなく、光熱費なんかも皆で暮らした方が効率的」
 

「仕事に行っている間も〇〇ちゃん(息子)が寂しい思いをしないで済むわ」
 

「家事だってやってもらえるんだから、何も心配なことなんてないだろ」

三人が口々に自分たちの一方的な意見を言うものだから、私も最初は黙って聞いていた。

 

息子はおもちゃで遊んでいたのだが、不穏な空気を感じ取ったのか、神妙な顔で私の膝の上に座ってきた。

「〇〇ちゃん(息子)もおじいちゃん家で一緒に暮らしたいわよね」

そう言われた息子は、この間とは違ってはっきりとした口調で拒否をした。

「嫌!お友達と一緒に遊んだり、小学校に行ったりするんだから!」

まだ幼い息子に抵抗されるとは思っていなかったのか、三人は驚いた様子だったが、これはママに言わされているだけだ、という結論に達したらしい。

私はもちろん何も言っていない。

 

たぶん、私がいじめられているように見えたのではないかと思う。

息子はそれ以上引っ越しの話をされるのが心底嫌だったようで、耳を塞いで

 

「もう帰って!」

 

と珍しく声を荒げていた。

 

普段では考えられないような様子の息子に大人たちは戸惑って、これ以上は逆効果だという空気になった。