もう限界だ。
私は全身の力が抜けてその場に座り込んだ。
我が家のテレビわきにはローボードがあり、そのローボードの上にあるクリスマスツリーは粉々に壊されていた。
前の週の日曜日に息子と二人で買ってきたもので、100円ショップだけど500円の商品だった。
息子は目をキラキラとさせながらオーナメントを選び、
「一番てっぺんにはお星さまをかざろうね」
と嬉しそうにしていた。
約束通り、次の週末にツリーの飾りつけをして、支えの部分も可愛くラッピングしたのだが、恐らくそんな様子の息子が気に入らなかったに違いない。
楽しそうにしている息子を見るとイライラすることの多かった夫は、年末のウキウキモードを打ち消すかのように毎年暴れた。
せっかく飾りつけをして楽しいクリスマスを迎えようとしていた私たちは、その様子に恐怖し戸惑い、そして落胆した。
傍らでは息子が膝を抱えて静かに泣いている。
こちらに顔を見せないようにしているが、体が小さく震えていた。
私が脱力しながらも粉々になったパーツの破片を拾っていたら、
「どうするつもりだ!」
と夫がすごんだ。
どうするも何も、こんなに粉々になったオーナメントは使えないし、ツリーだってもう折れ曲がっている。残念だけど今年もクリスマスツリーは飾れない。
「触ったらケガしちゃうから捨てようと思って」
捨てる、と聞いて夫は満足したのかそれ以上は何も言ってこなかった。
大惨事を前に重苦しい空気が流れる中、義両親がやってきてその様子を見るなり
「いつもこの時期だな」
とポツリと言った。
親だから何か言ってくれるかと期待したけど、やっぱり実の息子は可愛いからか言い訳をするだけで咎めようとはしなかった。
「病気のせいなのかな・・・」
「悪気はないんだよ、許してやって」
病気になってこれまで描いていたような生活を送れなくなったことは、少なからず影響しているとは思う。
だけど、それとこんな風に暴れるのとは別のこととして考えるべきだ。
年末の修羅場で一番酷かったのは、息子が3年生頃だっただろうか。
あの日は朝からよく晴れていて、ガラス越しに入る日差しがとても暖かい日だった。
南向きの我が家にはまぶしい位の光が入り、暖かい部屋の中で「年末はどんな料理を作ろうか」などと考えていた。
息子もお気に入りの本を読んだりDVDを見たりとごく普通にしていたが、突然夫の目が据わったかと思うと、激しい口調で怒鳴りつけた。
(しまった!!この時期は危ないと分かっていたのに、ここ数日穏やかだったからつい気を抜いてしまった!!)
後悔した時にはもう手遅れで、息子に暴言を浴びせ始めた。
日頃から暴言を吐かれ続けている息子は咄嗟に身構えるが、それが気に入らないのか夫は更にヒートアップ。
声も大きいし非常に威圧的で怖いが、息子はもっと怖いはず。
守れるのは私しかいないと、決死の覚悟で言い返した。
日頃の不満も溜まっていたので、いつもよりは言いたいことを言ったと思う。
参戦したのは良いが、夫は日頃から「議論なら負けない」と自負している人なので、口下手でおっとりと言われる私では到底太刀打ちできない。
それでも諦めずに言い返していたら、ペンを投げたり近くに置いてあった紙を破ったりして物に当たり始めた。
そこからエスカレートし、いきなり扉付きのカラーボックスを物凄い勢いで殴った。
私と息子はハッと息をのみ、恐怖で動くことができなくなった。
「どうせ俺が全部悪いんだろ!」
「何でもかんでも人のせいにしやがって!」
「もう嫌だ!」
そんな言葉をわめきながら暴れ始めたので、このままでは息子をケガさえてしまうと思い、
「お夕飯の買い物に行ってくるね」
と声をかけて急いで家を出た。