学校が終わる時間をチェックしていて、何時ごろには家に到着するかも把握している夫。
少しでも遅くなると「何をやっていた!」と怒鳴る。
その日も息子は家に帰りたくなくて、学校でお友達と少しお話をした後ゆっくりと歩いて帰ってきた。
恐らく20分くらいの違いだったと思う。
遅れたことに酷く怒った夫は、説明を求めて玄関に立たせた。
帰宅後にいきなり怒鳴られた息子は、怯えながらも一生懸命に言い訳をする。
本当のことなんて言えるわけがない。
お父さんと一緒にいるのが嫌だからゆっくり帰ってきたなんて。
その言い訳を夫が許すはずもなく、息子は叩かれてしまった。
叩かれて痛くても、泣くと更にやられるので必死に我慢する。
メソメソしているのを見ると怒りが更にヒートアップして何度も叩かれた。
これ以上怒られないようにと、こういう時の対処法を身に付けた息子は、その後何事もなかったように部屋の隅で小さくなって本を読んでいた。
もちろん内容など頭には入ってこないが、ポーズが大事なのだと悟っていた。
ここでゲームをしていたらまた怒られるが、本を読んでいれば何も言われまい。そう思ったはずだ。
しかし、夫は静かに本を読んでいる息子に向かって
「怒られた後にいつも本を読みやがって!!」
「本を読んでれば許されるとでも思ってるのか!!」
と吐き捨てるように言った。
幼い息子はパニックになった。
まだ先ほどの恐怖も冷めやらぬ中、必死に平静を装って本を読んでいるにも関わらず、それが気に入らないと怒られる。
本当は平気なはずもないのに、他に逃げる場所もないから、せめてこれ以上は攻撃されないようにと考えて取った策も無意味だった。
常に自分中心の夫は、息子が学校でお友達と遊ぶ約束をしてくると
「人が具合が悪いのに遊びに行くなんて!少しはこっちのことも考えろ!」
と言った。
幼い息子に対して何て要求をするのだと思うが、そう言われた息子は家に居るしかなかった。
家に居るしかないから、今か今かと私が仕事から帰ってくるのを待っていた。
全速力で帰り、何事もなく平穏な時間を過ごせていますようにと願いながら玄関のドアを開けた時に、目の前で息子が怒鳴られて玄関の方に追いつめられているのを見た時には、本当に暴れだしたいくらいの怒りがわいて泣けてきた。
部屋に居たのにじりじりと追いつめられたから、裸足で玄関まで出ていた。
傍らには大事にしているおもちゃやぬいぐるみが大掃除の時の大きな透明の袋に入れられている。
気に入らないことがあったり自分の虫の居所が悪いと息子に理不尽な怒りをぶつけて勝手に捨てようとする。
その場ではフォローできなくて、後で
「こっそり拾って隠しておいてあげるよ」
と言うと、
「怒られるから良いよ」
と目に涙を溜めながら言った。
その少し後、今度は勉強を教えていた時に、前にやったことができていないと怒って殴って泣かせた時、また同じことをした。
息子の目の前でゴミ箱にドリルを捨てた。
中には生ごみが入っていた。
汁気のあるものも含まれていたので、もう使えない。
ドリルなんて本当はやらせなくても良いと思っていたが、夫がやらせたいというから買ったし、それも私の少ないお給料から購入したもの。
それなのに息子の怒られる火種になるのならもういらない!と思い、後から非難されるのを覚悟の上でゴミに出した。
案の定、次の日からしつこく
「本当に捨てるなんて信じらんねぇ!」
「いつになったら代わりのを買ってくるんだよ!」
と言う。
責められるのは慣れているし、これでしばらくは息子がドリルのことで怒られることもなくなる。
そう思うと心が少しだけ軽くなった。