息子が生まれれば、夫が変わってくれるのではないかと思っていた。
可愛い自分の子供を見ているうちに、穏やかな気持ちになれるのではないかと。
しかし、モラハラをするような人種にとっては子供も時に邪魔になるのだということを学んだ。
まだ寝転がっているだけであったりお座りをして遊ぶだけの頃は良かったが、歩き始めてどんどんアクティブになっていくと夫はイライラすることが増えた。
そのイライラは最初は私に向けられていて、「米を研ぐ時にはお釜の底をシンクにつけるな」というよく分からない難癖をつけられたこともある。
キッチン周りを掃除していなくて汚れているなどということは決してない。
「夜寝る前には水気をふき取って、カビが生えないようにするときれいに保てるよ」と実母に教えられていたので、毎晩ピカピカにしていた。
何かに怒っている時に話しかけてしまうと、大きなため息をつきながらもう一つの部屋の方に行ってふて寝していることもあった。
先にことわっておくと、我が家には二部屋しかない。
一つがリビングでもう一つが寝室なので、夫がふて寝している間は寝る用意ができない。
息子が眠くて愚図っても寝かせてあげることができなくて、しばしばソファに寝かせた。
そんな様子を見ると「悪かった」と思うどころか嫌味を言う。
「当てつけかよ!そんなところに寝かしやがって!」
理不尽な文句を言われても、まだ自分が我慢すれば良いだけだから良かった。
その矛先が少しずつ息子に向かうまでは、自分だけが我慢すれば丸く収まるのだと思い込んでいた。
息子が二歳を過ぎた頃、おしゃべりが達者になってイヤイヤ期も始まり、これまでとは違った対応が必要になることもあったが、小さな子供相手でも夫は思い通りにならないと怒りを爆発させた。
諭すように注意をするのではない。
小さな子供にいきなり怒鳴りつけて、怯える様子を見て満足しているようにも見えた。
こんなに幼い子供には無理なんじゃないだろうか、という要求もつきつけた。
例えば「足音を立てずに歩け」というのも驚いたことの一つだ。
小さい子供は足も小さいし、歩き方がまだぎこちないので普通に歩いていても音が出てしまう。
しかし、夫はこれを決して許さない。
「うるせえ!何度言えば分かるんだ!」
二歳の子供に向かって何度も怒鳴った。ドアの開け閉めにも敏感になっていて、ふすまやドアは音が鳴らないように開け閉めしないと激怒された。
息子は物心もつかない頃から怒られ続けていたので、どんどんビクビクするようになり顔色をうかがうようにもなっていった。
息子の声はとても高くて女の子みたいだと言われることも多かったのだが、話し声が癪に障ることもあったようでよく怒っていた。
幼すぎて空気の読めない息子は、テレビを見ている夫に話しかけるのだが、その瞬間「うるせえ!」と鼓膜に響くような声で怒鳴られる。
邪魔になると
「さっさと寝ろ!」
と言い、まだ七時台なのに?というような早い時間でも自分の都合で寝かせようとした。
まだ眠くもない時間帯にいきなり寝ろと言われた息子が戸惑ってしまうのは当たり前だ。
お利口に横になってはいるが、なかなか入眠できずに寝返りを打ったり、急に何かを思い出して私に話しかけようとした。
言うことを聞かないと判断すると鬼のような形相になる夫は、段々と言葉だけでなく手もあげるようになっていった。
最初はほんの少し手を叩いたりするくらいだったが、エスカレートしていくのは目に見えていた。
これは明らかにおかしい。やり過ぎだと私も分かっていたので、いつも何かが起こる前に間に入って息子を上手く誘導しようともした。
誘導が上手くいった時は良いのだが、常に見張っているわけにもいかないので失敗することもある。
失敗した時には、夜布団に横になってから息子を抱きしめてヨシヨシと慰めた。
それと同時に涙が出てきて、これはもうダメかもしれないとも思った。
それでも家を出ることができずに長い間息子を苦しい環境に置いてしまったことは明らかに私の失敗であり、一生謝り続けても許されることではないと思っている。