新吉は深見新左エ門と聞いてびっくりします。
八年前門番の勘蔵が死際に、己は深見家の次男で改易の前に妾のお熊が入り腹へ孕した女の子を産み落とす。してみればお賤は腹違いの兄妹、知らずに夫婦になって足掛七年、飛んだ事をしたと油の如き汗を流し、殊にはまたその本郷菊坂下へ捨子にしたのは七年前お賤が鉄砲で殺した土手の甚蔵に違いない、聖天山へ連れ出して殺した甚蔵はやっぱりお賤のためには血筋の兄であったか、お累が自害の後このお賤がまたこういう変相になるというのも九年前狂死した豊志賀の祟りなるか、己は畜生同様兄妹で夫婦になりあさましい事だと思うと総毛立ち、只ポロポロ涙を落とします。そして新吉はお賤に夫婦の縁も今日限りと告げますと、お賤はこんな顔貌になったから捨てて逃げるのだと思うから新吉から放れません。