かってアダムスミスは自由主義経済では経済成長とともに貧富の格差が広がると警鐘を鳴らした。 人間の本性である「人々の欲望:他人をさしおいてでも自分の利益を追求するという行動」が富める人をますます豊にし、貧しい人をマスマス貧しくする・・・というわけである。

この貧富の格差の拡大がより深刻になるのが、経済成長が止まる・ゆるやかになる安定期においてである。 それは、成長期にある経済では貧しい人にも経済成長の恩恵が行き渡るが、経済成長が小さいあるいは無い経済では、富める人が貧しい人に行き渡るべき富を奪ってしまうからである。

 

 

この人間の本性に根ざした課題に対する対策は既述の『安定期の経済政策③:供給サイドから需要サイドに視点を移した経済政策』が一つ対策であるが・・・、実は、日本にはこの課題に対処できる”世界に自慢できるすばらしい仕組”があった。

 

安定期の経済に対する”日本が世界に誇るすばらしい仕組”とは・・・かって「日本型経営」と呼ばれ世界から注目された仕組である。 

日本型経営とは従業員を大事にする終身雇用とか年功序列などと呼ばれた雇用システムである。 この仕組は、いわば、雇用者の道徳感に基づくものである。

このシステムのもとでは、従業員を解雇することも、従業員の給与をカットして搾取するなどと言ったことは道徳的にも許ゆるされない・・・という暗黙の了解があった。

それゆえ、低成長時代にあっても、雇用者、従業員一丸となって対処するという風土があった・・・。 

 

かって世界から称賛されたこの日本型経営はこの10年の安倍政権によって破壊されてきた。 アベノミックスと称した「働き方改革」と言う美名の下に、従業員を大事にする日本型経営風土を破壊してきた。 結果、パート従業員を増やし給与を抑え、また、大企業においては賃金制度の見直しの名のもとに給与をカットし、従業員の解雇をやりやすくしていった。 

結果、企業は内部留保を増やし、富裕層の所得を増加させた。 一方、貧困層の増加を招き、「ワーキングプア」や「子供食堂」と言った言葉を生んだ。

安倍政権の10年間は、ものが売れない⇒経済の縮小⇒貧困層の増加⇒ものが売れない・・・という負のスパイラルの10年であった。

 

10年を経てようやく、企業をサポートすることではなく、家計の所得を増やすことが重要だと・・・、ようやく気がついたのが2023年の岸田政権になってからと言うことになる・・・。

しかし、時の政権が企業側に『従業員の給与をアップしろ』と言っても、それは一時的なものとなろう・・・。

 

重要な事は安倍政権時代に破壊された「日本型経営」の良い点を再認識してその経営風土を取り戻すことが重要である。 幸いにも、日本の全企業が「日本型経営」を忘れてアメリカの企業の様になってしまったわけではないので、今なら未だ日本の良い習慣が取り戻せるはずである。

そのため働き方改革の名を隠れ蓑に労働者の所得を奪ってきたいろいろな法律の見直しも必要になる・・・。

 

新政権の「新しい資本主義」に大いに期待したいところであるが・・・?