第18回 【番外編】アメリカの挨拶は潤滑油?
アメリカに来てから暫く経ちますが、今でも不思議に思うものの一つに「挨拶」があります。「Hi, how are you?」「Good,How are you?」アメリカでは、このやりとりを本当に流れるように交わします。明るく、軽く、滑らかに。日本育ちの私からすると、最初はこれが少し不思議でした。「How are you?(元気ですか?)」と聞かれたら、生真面目に「今の自分の状態」をしっかり答えたくなってしまうからです。頭の中で「ええと、今日はちょっと寝不足で……」なんて英語を考えているうちに、相手はもう次へ進んでいる実は、日常の挨拶で交わされるこの言葉は、相手の体調や気持ちを深く聴こうとしているわけではないことが多いのです。いわば、すれ違いざまに交わすハイタッチのようなもの。最初の頃は、この「深くはないけれど、流れるように交わすテンポ」を感覚的に理解するのが、難しかったです。何故なら、深くはないからといって、適当でいいわけでもないんです。むしろ、この国ではこのひと時を、大切にしています。明るく声を掛け合い、ちょっとしたユーモアを添えて笑い合う。ほんの数秒のやりとりですが、それが人と人との間をなめらかにしてくれる「暮らしの潤滑油」になっているのです。介護の仕事をしていると、この潤滑油の力を特に実感します。利用者さんのお宅に伺ったとき、看護師さんや他のスタッフと会ったとき。まず明るくこの流れるような挨拶を交わすだけで、その場の空気がふっと柔らかくなり、信頼関係の扉がひらくのを感じます。私は、この『瞬間技』のような軽やかなキャッチボールが凄いなと、今でも感じる時があります。これは単なる英会話の技術ではないのだと思います。お互いが気持ちよく、安全にこの社会で関わり合うための、この国ならではの文化。アンディさんが、メアリーさんに「Hi, how are you?」と笑顔で明るく軽やかに声をかける姿を見ていて、そんな心の潤滑油のことを、しみじみと考えていました。