目が覚めて、ぼんやりとまーさんの寝顔を見る。
先週までの妙な不安感がなくなった。
引越し先での慣れない生活が、心細さを生み出していたようだ。
ホームに戻ってきて、どーんと腹が座ったような、落ち着いた気分である。
フワフワと浮いている気分が、なくなった。
自分の住み慣れた場所、生活圏内にいるって、こんなに気持ちが安定するもんなんだなぁ。
ホームにいるかいないかが、こんなに情緒に影響を与えるなんて、知らなかったなぁ。
まーさんとドラマの話や恋愛の話をする。
その流れで、この芸能人とセックスできるか?の話題で、ヤキモチを妬いて拗ねてしまうカオル。
まーさんは本心かもしれないし、冗談かもしれないけど、他愛の無い内容だ。
自分から振った話題なのに、落ち込んでしまう。
すぐ想像して嫌な気分になる。
まーさんが、自分以外の女性を綺麗とか可愛いと言うと、哀しくなる。
私ったら、まだまだ全然自分に自信がないんだなぁ。
まーさんに褒められて、承認欲求を満たそうとしているのだもの。
可愛いって、言われたがっているんだなぁ。
だってまーさんは、あんまり普段可愛いって言ってくれないから。
せっかく情緒が安定したと思ったのに、いきなり急降下していく。
生理前なのかな?
わからないけど、自分からヤキモチの火種になるような事を話題にするのは、もう止めよう。
今のは自業自得だ。
モヤモヤしたまま夕暮れ時が迫ってくる。
時間に追い立てられるように、体を重ねる。
心の浮かなさを体で埋めようとしてしまう。
でもなんだかスッキリしないまま、お別れの時間。
「大好きだよ」と抱きしめてくるまーさんに、さっきはヤキモチ妬いて拗ねてたんだよ、と伝える。
「それは良くないね。拗ねないで良いんだよ。まーさんはカオルさんじゃなきゃダメなんだよ。カオルさんが可愛いんだよ」
と、背中をさすってくれる。
駄々をこねる子どもや、神経が逆だった動物をあやすような優しい手つき。
「大好きだよ、愛してるよ」と何度も繰り返し、抱きしめて落ち着かせてくれる。
まーさんは優しい。
苛立ったり逆ギレしたり投げ出したりせずに、愛情を注いでくれる。
しっかりと時間をかけて愛の言葉を注ぎ、カオルの気持ちが安定するまで、一緒にいてくれる。
「カオルさんがヤキモチ妬くと、愛されてるなぁって感じるよ」と、まーさんも満更ではなさそう。
まーさんもこうやって愛情確認してるのかしら。
気分が落ち着き、また来週ね、と挨拶をする。
暗闇でまーさんの車を見送るのは、いつの季節も淋しく感じる。