男の人の甘い声が自分に向けられるのって、なんかムズムズするなぁと気恥ずかしくなるカオル。

「もう寝てた?」と聞かれ、「ううん、ちょっと眠くなったけど起きてたよ」と、恋愛初期のような対応をしてしまう。




眠さのピークを過ぎて、恋愛のソワソワ感の方が勝っている。

こんな感覚も久しぶりだ。

だってまーさんとはもう何年も仲良くしているから、慣れきった関係だったし。




それがつい先日のデートで、まーさんから激しく嫉妬されて、2人の仲は燃え盛っていた。

予想だにしなかったまーさんの言動に、カオルは驚きを隠せなかった。

電話でも再びその話になる。




「今日も、あの男の人と会ってたんじゃないの?」

なんて冗談めかして言えるくらいには、まーさんの気持ちは落ち着いてきたようだ。

よかった、面白おかしくネタにできるまでに昇華できるようになったのね。




カオルはまーさんが茶化してくる様子に、一安心した。

そもそもこうやってすぐネタにしてくるだろうと思っていたのに。

意外にも本気の嫉妬心に着火したようで、それが良いスパイスになっているようだ。




安定した関係に新たな風が吹いて、次の段階に進んだような気がする。

前回会っていた時と同じような、お互いの気持ちを打ち明ける話をする。

この前こう言っていたけど、本当にそう思っているの?とか。




それで先日のデートで盛り上がった内容を、また確認していると、少し違うニュアンスになっていることに気付く。

先日は、カオルが隣県に引っ越すことになったら、まーさんも一緒に行くって言っていたのに、今日は「少しだけね、一年とか」と言い出す。




あと、他の人と付き合う事なんてもうこの先ないって言っていたのに、今日は「多分もう二股とかはしないと思う」と、弱気な口調。

もうっ!一昨日のあの熱気は何だったのよ?!

そうモヤついてしまったカオルだが、はたと思い至る。




あ、これ、I川さんや清くんやとしきの時と同じだ。

恋愛モードに酔っている時に繰り出す、男の台詞。

情熱が燃え上がって、普段は言わないようなドラマチックな言葉が流れるように出てくる時。




そしてその激甘で脳を溶かすような台詞に、身も心も委ねて陶酔していると、その後恋が終わった時に我に帰り「あの男、嘘つき!口だけじゃん!」となるのだ。

しかし、今気付いた。

決して嘘ではなかったのだと。




今回のまーさんの様子を見ていると、先日の愛に酔っ払った言葉は、その時は本気だったんだと思う。

けど一日置いて、また冷静になってきたのだろう。

まぁ、そういう気持ちもあるけど、現実問題そこまでは出来ないかなぁ、、、みたいな。




確かにカオルにだって覚えはある。

実際にそこまで出来る訳はないけど、熱に浮かされたら情熱的な言葉を吐いてしまう。

でもそれが嘘かと言うと、そんなこともないし、その時その熱い気持ちだけはあるのだ。




そうだよね、そういうことだよね。

愛の熱に冒された台詞は、お互い様よね。

決して嘘ではないんだわ。

その瞬間は、本当にそう思っているんだもの。

その気持ちをただ、嬉しいなぁと受け止めれば良いんだわ。




言葉の整合性や正しさなんて、必要ない。

移ろいゆくもの、それが人の心だし、恋愛だもの。

今が幸せなら、それで良い。

先のことなんて考えてもしょうがない。




ふっと、その考えに至った時に、一昨日からの熱情が少し冷めてきた。

過去の恋愛では、ずっとその情熱的な言葉にしがみついてきたけど。

幾つかの経験を経て、男女の想いの儚さを実感するカオル。




恋愛に対する姿勢に変化が現れてきている。

まーさんとは2時間も電話で話し、あっという間に時間が過ぎ去る。

「なんか楽しかったなぁ。また明日も電話する?」と聞いてくるまーさん。

え?明日も??いや、嬉しいけどさ、、、




電話の後にも、ちゃんと定例LINEも返信してくれるまーさん。

優しいのかな?真面目なのかな?

ツンデレなのかな?やっぱり不思議だなぁ。

とりあえず、今こうして幸せであることを味わおうと思うカオルであった。