そう、I川さんは、見る人が見ればオジサンなのである。
職場の先輩女性がI川さんを見て、
「あんなオジサンいたっけ?」
と吐き捨てた時には、ちょっとショックなカオルだった。
確かに、恋愛対象として意識する前には、カオルも同じことを思っていた。
だから視界にも入ってなかったのだ。
それが今やキラキラのフォーカスがかかり、誰よりも素敵に見えてしまう。
しかも、コミュニケーション能力の高いI川さんのことだから、他の女性社員とも距離が近くて、モテているのでは⁈
なんて妄想にまで取り憑かれてしまう。
カオルは情念が強い、執着心の塊のような女なのだ。
自分の前で、他の女性の話をされるのもイヤなくらい、嫉妬深い女なのだ。
そんな自分の本性を出したら男が引くことくらいはわかっている。
だから普段は、
「私全然軽いノリで恋愛できますよ〜」
みたいな雰囲気を装っている。
何回かエッチだけした、初めから相手も軽いノリだな、とわかっている男には、それは通用する。
そもそも相手に何も求めていないから。
けど、少しでも熱心に口説かれようもんなら、途端に恋の嵐に巻き込まれるカオルである。
そんな恋に酔っ払ったカオルに、I川さんはある日手紙をくれたのだ。
これにはもう、最高潮に胸がときめいた。
内容は、いつもLINEでやりとりしてるような気軽なものであったが。
彼の肉筆とその文字の温度が伝わる感じに、感動した。
結婚してラブレターなんてもらったの初めてだから。
ことのほか喜ぶカオルに、I川さんも嬉しそうだった。
「またお手紙書くからね」
そう約束してくれた。
カオルは大事に大事にその手紙を、ドレッサーの引き出しにしまった。