年下男Nくんとお泊まりした翌日、仕事をして家に帰る。

かつて家に帰ることがこんなに恐怖だったことがあっただろうか。



仕事が終わったから帰るよ、と夫に電話するも、冷たい口調。

当たり前か、年越しに家に居なかったんだもんなぁ。

イヤだなぁ、帰りたくないなぁ。



今朝方までの満たされた気分が一気に吹き飛ぶ。



今までなんだかんだで仲良し夫婦をやってきたのだ。

ケンカらしいケンカもしたことない。

険悪な空気になったって、何時間ももたない。

暗黙の了解で、何となく普通に会話を始めて元に戻るのが常だった。



重たい足取りでマンションの階段を昇る。

玄関を開けても、おかえりの声もない。

夫はテレビを見ていた。



努めて平常心を装って、何気ない会話をしようとするカオル。

重い、空気が重すぎる。



「あのさ、なんでこんなに貯金減ってるの?何に使ったの?これからは俺が家計を管理するから」



夫は銀行の通帳を見ながらため息をついた。

どうやら昨日今日の一人の時間で、色んなことを疑ったのだろう。

家計の貯金が思った以上に減ったことに、あらぬ疑いをかけて思い詰めたらしい。



何のことはない、特に変わったことに使い込んだ訳ではない。

普通に服や下着、化粧品に食事代、そんな日用品に使っていただけだった。

男に貢いだりした訳ではない。



普通に暮らして、ほしい物を買っていたら、それくらいの金額は減っていくのだが、疑心暗鬼になっている夫にはそんな理由は通用しない。 



カオルとしても今この状況では強気に出ることもできず、全ての銀行口座を夫に管理されることになってしまった。

月々お小遣い制での限られたやりくりをする羽目になってしまった。



まぁ、しょうがないか。

それでも私は後悔はしていない。

自分のワクワクに従った結果だもの。



このまま何もせず、夫の言うこと聞いて安寧な日々を送っていても、本当の私の望む生活はないから。



不思議なことに、抑えつけられれば抑えつけられるほど、カオルの体にはパワーがみなぎってきた。



バカな夫。

自由になるお金を奪ったって、私の心の自由までは奪えないんだから。

好きにすればいいわ。



冷え冷えとした家の中で、息苦しさを覚えながらも、心の底にはメリメリと燃えたぎる情熱が湧いてきたカオルだった。