金曜日の夜ということもあってか、店の中は慌ただしく、客席は賑わいを見せている。
バーカウンターは隙間なく埋まり、バーテンダーが忙しくもカウンターの客と会話を途切れなくしている。
アルコールが進むにつれ、どこかでしまっていた感情が沸き上がっているのを感じる。
それは過去からくる自分が抱いていた自己否定や現状に対する漠然とした不安感であったり、根拠のない自分の小さな自信からくるだろう居直る感情などが入り乱れてくる。
俺は、何がしたい、何ができる、そう思いつつも、まだ何もやっていないじゃないか、やれることはこれまでの尺度で測れないことが待ち受けているはずだと、理由もなく思う。
そう思っても、先生にはそうした思いが告げられずにいる。
「かしむらさんは、いま何がしたいの?」
先生が優しいトーンで僕に聞いた。
「やりたいことですか?」
やりたいこと、それが自分の中で整理できていればこんなに苦しい思いはしないはず。
整理できていないという自分をまるで第三者かのように感じ、そうした自分に対して理由づけすることでまた動かなくなる。
整理しようとしない、整理の仕方などわからない、だからなんとかしてくれよ。
誰に訴えるわけでもなく、いいようのない思いが胸の中を駆け巡る。
なんでこんなに苦しいんだ、僕の理想ってなんだ。何がしたかったんだ。
グラスのウィスキーを流し込んだ。
何がしたいんだ俺は・
「音楽がしたいですね、どこか置き忘れてしまった感覚があるのかもしれないですけど、音楽がしたい。」
思いの整理より先に言葉が出ていた。
そっか、音楽がしたかったんだ。
でも、5年前に自分で見切りをつけてやめた。
好きなことをして、少なからず親にも迷惑をかけた。
この年で今更、また好きなことに挑戦などしていいものか・
ブランクを埋めるのも、機材をそろえるのも、また1から始めるのもお金や時間がかかる。
夢追いなど、家族に迷惑をかける。今は妻もいる、それにまた失敗した過去を繰り返すんじゃないか。
そうだ、仕事も結局同じような苦しい思いを繰り返している。
何も進んでないじゃないか、また自分は迷惑を繰り返すじゃないか。
結局僕は、何も変えられないのだろうか。。