なんてことない非日常 -35ページ目

なんてことない非日常

スキビ非公認二次創作サイトです。
駄文ばかりの辺境館ですが、広いお心で読んでいただける方歓迎しております。

§ルートX   50





 「・・・・あれが・・・ビーグルですか?」



「・・・・・その名前だとロックバンドでは売れないよね?京子ちゃんさっきも間違えていたけど・・・わざと?彼らは『VIE GHOUL』(ビーグール)だよ?」



今日の撮影は、今注目株の新人タレント京子と今週チャート初登場1位をさらったビーグールの新曲の収録だった。



(ビーグール?・・ビーグルとどう違うのかしら・・・・っていうか・・・・あの格好・・・)



キョーコは今目にしている光景が信じられなかった。

いや、今自分がいるこの場所・人が信じられなかった。



「あ・・あの・・・・不破・・尚に・・似てませんか?」



(っていうか、アイツのデビュー当時の衣装そのままそっくり真似てない!?)



無駄にセクシー、無駄に派手という衣装を5人グループの彼らが纏っているのをキョーコは唖然としながらスタッフにそう聞いた。

しかし返ってきた言葉に、キョーコは度肝を抜かれた。



「ええ?そうかな?・・・う~ん・・ビジュアル系ってみんなあんな感じなんでしょ?」



「・・・・・・・は?」



確かに、同じジャンルなら似通ってくるかもしれない。

でもこの者たちは違うと、キョーコは直感で悟った。

話し方も、冗談の交え方も・・・そして、新曲というものも。


全て、不破 尚を真似ていることがありありと見て取れた。



(っ・・・なにやってんのよっ!?ショータロー!!)



真似られただけで2位になったショータローの不甲斐なさに、キョーコはこめかみに青筋を立てた。



「ええ~!?コレがあの天使役の子!?」



「まぢで?すっげ・・CGの使い方半端ないな・・」



「いや、メイクでプチ整形なんだろ?」



「まあ・・・あの不和には、こんなのでお似合いなんじゃない?」



「「いえてる~」」



「!!?」



ブルブルと怒りに震えている間に収録を終えたらしいビーグールに、キョーコはいつの間にか取り囲まれていた。


5人ともタイプの違った顔立ちで、それぞれにファンを持ちそうだったがその中でもボーカルの男だけは先程から一言も話していないのにキョーコはゾクリとした。



「ね?レイノ君もそう思うよね?」



話しを振られたその男はレイノと呼ばれ、じっとキョーコを見つめた。

その視線は酷く冷たくキョーコはびくりと体を震わせ、恐る恐るレイノを見上げた。



「・・・・・・・・アイツのでなければ、視界に入ることもない女だな?」



「!!?」



「だよね~?」



「しかも・・・どんなに端くれでも芸能人ならもう少し衣装に気を使った方がいい。そんな格好だと芸能人というものに憧れがもてなくなる」



「!!!!・・・なん・・・ですって?」



(コレでも私の必死のコーディネートなのに!?)



「ま、なんにしても・・・不破にお似合い」



ぽむ・・・っと肩を叩かれたあと、キョーコを嘲笑いながら去っていくビーグールたちに多くの苛立ちを募らせたキョーコは収録が終わると直ぐに祥子に電話をした。



「あ・・祥子さん?ちょっとアイツと話があるんですが・・・今・・・どこですか?」



電話越しからでもキョーコが怒っているのが伝わってきた祥子は、驚きながら窓際にいる尚をチラリとみた。



『え?!キョーコちゃん!?あ・・尚は今・・・』



しかし、キョーコはしどろもどろとする祥子に苛立ちを向けるように話を続けた。



「今、すっごく嫌な思いしたんですよ・・・ビーグルとか何とかいう奴らに!」



『!!・・・・・・あの・・・今・・・TBMの・・・』



「直ぐ行きます!!」



ぶつっときれた電話に呆然としたのは祥子だった。



「・・・・誰?」



「え・・・あの・・・・キョーコちゃんからで・・・」



不機嫌というオーラのみを纏った尚に対して、祥子は突然切れた電話を手にしたまま今の会話を伝えた方がいいのか考えあぐねていた。



「あ・・・・尚・・今日は・・歌えそう?」



「・・・・・・・・・一応・・・」



ぶすっとした表情のままそっけなく言う尚に、祥子はもう声をかけることが出来なかった。


ビーグールが現れて、チャートをさらってから・・・いや、あの曲やビーグールのスタイル、インタビューの様子を目にしてから尚は日に日にやる気をなくしていった。


もう祥子には尚のやる気を起こさせる方法など思いつかなかった。


愛用していたギターを壊してあるのを見たのはそんな矢先だった。

それ以来、尚の様子を見ながら出来ることだけをさせる日々が続いていた。



(このままじゃ・・・尚・・・あなた本当に・・・・・)



あいつらに消されてしまう。

そんな考えが祥子の中に過ぎって、体を震わせて青ざめた。



『ゴンゴンゴンゴン!!!』



「!!?」



ぶるっと体を震わせた途端、控え室の扉が強く叩かれ震えたことを忘れるほどビクリと反応してしまった。



(ま・・まさか・・・・)



祥子が恐る恐る開けると、そこには先程電話をぶっちぎったキョーコが立っていた。



「ほ、本当に来たの!?」



「さっきまでここで撮影だったので」



普通に会話しているように見えるが、キョーコは怒りのオーラに包まれていた。

祥子は顔を引きつらせて、後ずさると尚にキョーコの姿がはっきりと確認できた。



「・・・・何しに来た」



「・・・何しに来た・・・ですってぇ?」



尚の一言でキョーコの周りをぐるぐるとしていた怒りのオーラが、一気に尚に襲い掛かった。



「!!?」



「ふっざけんじゃないわよ!?どーしてあんたに関わっただけで私が蔑まれなきゃなんないのよ!?」



がっ・・と怒りのオーラだけでなく、キョーコの両手が尚の両襟を掴んだ。



「!?・・・・アイツらと会ったのか・・・」



「会っただけじゃなく、私が必死に演じた天使役もアンタのせいでこけ落とされたわよ!?アンタなにしてんのよ!?私が追いかけても届かないようなスターになるんじゃなかったの!?なんでこんな真似だけ連中に1位の座を奪われてるのよ!?」



キョーコの放った一言に、祥子は一気に青ざめた。



「!キョーコちゃん!・・それはっ」



しかし祥子の制止の声は尚によってかき消された。



「うるせえ!!お前に何がわかるってんだよ!」



「わかるわよ!アンタのことだから真似されてもジタジタするのが格好悪いって静観決め込んでいたら、あっという間に1位奪われて内心焦ってんでしょう?なのに、それを表に出すのが嫌でふてくされてるだけじゃない!」



図星を指されたせいか、尚は舌打ちをしてふてくされてそっぽを向いた。



「っ・・・・・だから幼馴染なんか嫌になるんだよ!」



掴みかかっていたキョーコの手を振り払ってそう吐き捨てる尚に、キョーコは腕組みをしてさらに言葉を続けた。



「幼馴染だからじゃないわよ、アンタのこと今まで見てきたから知ってるだけでしょう?どうして以前の私のように見てきたファンを取られてももがかないの?だからただの格好付けで終わるのよ!」



「!っ・・・うるっ」



「あんな真似っこビーグルになんか負けんじゃないわよ!!アンタは私が倒す・・・・・・・なに・・・・・笑ってんのよ・・・・」



息巻くキョーコの言葉を受けた尚はしばらく制止した後、突然その場にしゃがみこんで肩を振るわせ始めた。

キョーコには直ぐにそれが笑いを堪えていることがわかり、さらに青筋を立てた。



「っ・・・だ・・・おまっ・・・ぶっほ!!!」



どうやら尚は今しがたキョーコが発した『ビーグル』に大うけの様子だった。



「キョーコちゃん・・凄いわ・・・こんなに笑う尚、始めてみた・・・お笑い番組見てても全然笑わないのに・・・」



「・・・・・・・・・・・・・・・・」



尚が酷い笑い上戸だと知っているキョーコにはにわかに信じられないが、格好つけるために爆笑しないでいることは容易く想像できた。



「・・・そんなけ笑えればもう大丈夫ね?もうこれ以上失望させないでよ?アンタは私が倒すんだから!」



「っ・・・・・・っふ・・っはっ・・・・・おお・・・犬っころ相手にちょっと遊んでやっただけだ・・・直ぐにお前が追いつけない所に行ってやるよ・・・っぶはっ」



笑いで出た涙を拭いながら、そう無駄口を叩く尚にキョーコは大きなため息をついてこぼすとくるりと踵を返した。



「キョーコちゃん!?どこに・・」



「もう今日の仕事は終わったので帰ります」



「そ・・・そう・・・・あのっ・・・ありがとう!」



「・・・・礼を言われることなんかしてません・・・・ただ、倒そうと思っている相手があんな奴らに先に蹴落とされそうになっているのは見るに耐えられなかっただけですから・・・・」



不機嫌を貼り付けた表情でそういうキョーコに、祥子は苦笑しながらも再度礼を述べた。



「それでも・・・ありがとう・・・尚を引き上げてくれて・・私にはどうすることも出来なかったから・・・」



「・・・・そう・・ですか・・・余計なことしました・・・それじゃ・・・」



スタスタと尚の楽屋を出て行き、廊下を歩いて少し気分が落ち着くと感情のまま来てしまったことをキョーコは後悔した。



(それでも・・・なんだか許せなかったんだもの・・・・・あ!コーンに電話しなきゃ)



本当は『Dark Moon』のスタジオを後にする前に、TBMで撮影があることを伝えたかったのだが貴島に構われてそれは叶わなかったので今から帰ることを留守電にでも入れられたらとキョーコは慌てて鞄から携帯を取り出した。



『プルルルル・・・・ただいま、電話に出ることができません・・』



キョーコの予想通り、まだ蓮は撮影中のようで携帯には無機質な女性のアナウンスが流れた。

しばらく待って、ピーという合図にキョーコが口を開きかけたその時携帯を持っていた手が強く引かれた。



「キョーコ!」



「!?」



勢いよく掴まれた衝撃で、携帯はキョーコの手から外れて宙を舞い虚しい音を立てて冷たい廊下を転がっていった。


携帯を放り出す形になったキョーコは、呆然とした。


手を勢いよく掴んできたのはショータローで、今キョーコはそのショータローに抱きすくめられる形で廊下に立っていたからだった。


廊下に落ちた携帯からは、二回目のピー・・という音がして通話を勝手に終了していた。





51へ









《今回も三周年のフリー作品です。

思いっきり思いつきです。

拙宅には多い(と、いうかコレしかない)ヘタレさん全開です!

それでもよろしければどうぞご自由にお持ちください~》




§これは俺の






 「レンくん~?そんな所なめてたらお腹壊しちゃいますよ?」



「・・・・・・・・・・・・・」



キョーコがそう話しかけているのを、蓮は酷く嫌そうな顔で見つめた。

そしてその視線はキョーコが今、ひょいっと持ち上げた子ヤギに向けられていた。


現在キョーコと蓮は、郊外にあるふれあい牧場に来ていた。


ドラマ撮影のためなのだが、そこで飼育されている子ヤギの名前が奇しくも『レン』だった。



「レンくん?なんで私の足ばっかりなめちゃうかな?」



牧場主の元気な娘役というキョーコのいでたちは、白いロンTにサロペットタイプのショートパンツとごつめのスニーカーだった。

そんなキョーコのむき出しになった向う脛を、子ヤギのレンはせっせとなめてくるのだ。



「誰かさんみたいに、キョーコちゃんに甘えようと必死なんじゃない?」



「へ?」



「!?っ・・・社さん・・・?・・」



「じょ、冗談だよ・・・」



ただでさえ、不機嫌極まりない状態にある蓮の逆鱗に触れたのを察した社は半笑いしながら飲み物を取って来ると理由をつけて二人と一匹の前から逃げた。


子ヤギはしばし、キョーと蓮を交互に見ていたがまた小さな舌を出してキョーコの脛をなめ始めた。



「っきゃ・・く、くすぐったいよ・・レンくん・・・」



その光景を無表情で見ていた蓮だったが、おもむろに口を開いた。



「キョーコ」



「っ!?へ!?は・・はい!?」



突然、蓮から名前呼びされてキョーコは思わず返事をしてしまった。

が、蓮は特にキョーコを見ることもなく子ヤギを見つめたままだった。



「『キョーコ』っていうんだって・・・」



「・・・へ?!」



「その・・・子ヤギの『レン』くんのお母さんヤギ」



「・・・・・へ?」



「だからかな?最上さんのことお母さんと勘違いしてるとか・・・」



「・・・・は?」



至極真剣な表情で、顎に手を当て考えるポーズを取りながら蓮はキョーコの元へと歩み寄った。


そして座っているキョーコの横にしゃがむと、子ヤギの頭を撫でてやった。



「・・・『レン』?彼女は『キョーコママ』じゃないよ?・・それとも・・・最上さんの足はママのお乳みたいに甘いのかな?」



無表情のまま子ヤギの頭を撫でていた蓮が、見上げるように振り返った顔を見たキョーコは悲鳴を口の中で抑え込みながら慌てて立ち上がった。



(ひいやああああああ!?夜の帝王!?なんで!?こんなに昼さなかの、のどかな牧場に降臨されてらっしゃるの!!?)



真っ赤というか真っ青というか・・とにかく顔色がスコブル悪くなったキョーコの膝に、蓮の顔が近づいてきた。



「つ、敦賀さん?!な、なにを・・・・」



「・・・・・」



「敦賀さ!!??」



『チュ・・・』



(ぎぃやああああああアアアアアアアアアアアアアアア・・)



子ヤギの『レン』も呆気に取られるナチュラルさで、蓮はキョーコの膝に吸い付いていた。

その瞬間、キョーコはまるで魂が抜き取られたみたいに口を『あ』の字にしたまま立った状態で気絶した。



「・・・・うん、確かに甘いね?・・・でもこっちは『蓮』(オレ)のものだから、お前はあっちで待っている『キョーコママ』の所に行くんだよ?」



優しくそう諭して、蓮が指差すと子ヤギの『レン』は母ヤギの『キョーコ』が待つ方へと元気に駆けていった。



「・・・・さて・・・最上さん?」



「・・・・・・・・・・・・」



「最上さ~ん?・・・・・・目覚めのキスでもしましょうか?お姫様?」



「ぎゃ!?・・・・・・・・・あっ」



「うん?」



「あんなことしなくてもっ」



じと・・・と恨みがましい視線を投げかけられても、蓮は憮然とした態度を取り続けた。



「・・・・・・・あんまりにも『レン』が熱心になめていたから、そんなに最上さんは美味しいのかと思ってね?」



「おいっ!?お、美味しくなんてないですよ!?」



「食べてみないとわからないだろ?」



「(ひいいいいっ益々夜の帝王にっ!?)わ、わかりますよっ・・こんなペッタツル~は美味しくないいです!」



顔を真っ赤にして必死に抗議するキョーコを見下ろしていた蓮は、その端正な顔を崩さず口の端を上げた。



「本当に?」



「へ?・・」



「俺は・・美味しいと思ったけど?」



「へ!!?」



「じゃあ、最上さんを美味しいと思うのは俺だけだから最上さんは俺専用のご馳走なのかな?」



小首を傾げて笑う蓮に、キョーコは首まで真っ赤になった。



「ひっ人をご馳走扱いしないでください!!」



「ヤギにまで食べられてるんだからご馳走なんじゃないの?」



「あ、あれは・・・たまたま・・・」



「『レン』くんだから?」



「そ、そうですよ!・・で、でも敦賀さんが子ヤギの真似しなくてもいいじゃないですかっ」



「・・・・・・・・(俺以外にあんなことされてるから我慢ならないんじゃないか)」



ブツブツと呟いている言葉はキョーコには届かず、蓮はむっとしたままキョーコに注意するため振り返った。



「・・・とにかく・・・君は俺のなんだから、子ヤギにまで食べられないように」



その言葉に一瞬目を大きく開いたキョーコだったが、しばし考えて大きく頷いた。



「・・・そうですね?この牧場でのびのび育っていた私を、敦賀さんが見初めて都会へ連れて行ってお嬢様に仕立てていく話ですからね?今回のドラマ」



「・・・・・・・・・・・・え?・・あ・・ああ・・まあね?」



「わかりました!女優京子!今から休憩中とはいえ役が抜けないようにします!!いつもご指導ありがとうございます!!」



「・・・・・・・・うん・・・・ガンバッテ・・・」



せっかくの宣言もキョーコにはただの先輩の言葉に成り下がってしまい、こっそり気落ちする蓮だったがまた『レン』がキョーコのところに来ようとしたのを見つけると口をパクパクとさせた。



『彼女は俺の』



それがわかったかのように、子ヤギの『レン』はくるりと踵を返すと美味しい草の生える草原へと走り出したのだった。



(・・はあ・・・・・いつになったら彼女自身に気づいてもらえるのかな?)



やっとキョーコに近づく馬の骨と子ヤギに『俺のもの』圧力をかけたものの、キョーコ自身にはまだまだ気づいてもらえそうにない蓮なのだった。




end



《独占欲の塊の告白なしヘタレ『俺のもの』宣言・・・・。

うちの蓮さんこんなのばっかり・・・・・凹》




《こちらのお話は、某所で開催中の噂の人魚フェア~への参加&提供物です。(危険物)


他の皆様の所にいるような、キラキラ素敵王子様蓮さんや、可愛い人魚姫キョコちゃんはいません。←どきっぱり。


それでもオッケイ!!という方は一緒に漂ってくださいませ~~~》





§漂う恋心は深海で    2





 ―これは、君が俺を親しげに呼んでいた頃の昔話・・・―




*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆




君と始めて会ったのは、まだ君が幼くて父親の背中から出てこられないくらい恥ずかしがり屋さんの時。



「キョーコ、遠い親戚にあたるクオンだ・・今日からワシの海域で暮らすことになったんだ・・・仲良くしてやれ?」



俺の姿を見て、オドオドしながらもキラキラとした表情で興味津々に目を輝かせるところは今も昔もちっとも変わらなかったね?



「お前!?いつになったらウロコ生えんだよ!?」



「・・・・・・・しらない・・」



でも成長していくにつれ、周囲にいた小ざかしい群れが俺を放っておいてはくれなかった。


蛮族とされる、サメ族に属するイルカ種である俺にウロコなど生える訳がなかった。

すでに自分についてわかっていた俺は人目を忍ぶようになって来ていたのに、突っかかりたい年頃の者達は執拗に俺を見つけ出してはなじってきた。



「こらああ!!またクオンを虐めたなあ!?」



「げ!キョーコだ!逃げろ!!」



数人のグループで結成されているのに、君はそんなのお構い無しに俺のところに来てくれたんだ。



「・・・キョーコちゃん・・俺には近づいては・・・」



彼女の父親がこの海域の王であるため、皆口にはしないものの蛮族である俺をテリトリー内に入れていることは他の人魚たちは良しとしなかった。

なぜなら、蛮族は人魚を喰らうからだ。


俺は人魚族を食べたいとも思わないし、ましてや襲いたいとも思わない。

けれど周囲はそうは思わない。


そして俺自身も、自分がどう変化するかわからずに怖かった。


しかし、君は俺の恐怖を軽々と塗り替えてしまった。



「私とクオンは友達でしょう?私は誰よりもクオンのことを知っているわ?洞穴を通り抜けようとして引っかかって泣いたり、サンゴの産卵で感動して泣いたり、私がなかなかウロコが大人の色にならないのを一緒に悲しんで泣いてくれたり・・」



「ストップ!ストップ!!・・・キョーコちゃん・・・それじゃ、俺がいつでも泣いているヤツみたいな・・・」



「だって、こんな風にいろんな感情で涙を流せるなんて・・これこそがクオンが蛮族じゃないって言う証拠じゃない?!蛮族は涙なんか流さないって一番上のお姉さまが言ってらっしゃったし」



なんて単純な思考で、決め付けるんだろう・・・・そう、思ったのに・・・

深刻になって、殻に閉じこもりかけていた俺はあっけらかんと言い切る君にきっとその時心を奪われたんだと思う。


可笑しくって、何もかもがバカみたいになってたくさん笑って・・・



「ほら、また涙が出てるよ?クオン!」



その時、海面から差し込む強い光が、満面の笑顔を見せるキョーコ・・君にだけ当たっているように見えたんだ。



*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆



「クオン!!クオン!!!」



君に見出された希望のお陰で、俺は他の中傷など気にならなくなり本来の気性を発揮し始めていた。


と、いってもイルカ種は元々温厚らしく頭脳を使うのが得意だったため人魚族が入りずらい深海の入り組んだ居城を自分で築き上げた。

キョーコは最初苦労したものの、持ち前の負けん気で俺の居城にも難なく入ってきていた。



「どうしたの?すっごく嬉しそうだね?」



人魚姫らしく・・・とまではいかなかったけど、とても女の子らしく成長した君が頬を高揚させて俺に見せてくれた。



「見て!!大人のウロコになったの!!」



「!!」



海藻を腰に巻きつけているから何事かと思ったら、それを剥いで見せてくれたのは桜色だったウロコが綺麗な蒼をベースにした虹色に変化している姿だった。



「おめでとう!!」



「ありがとう!・・でも・・・」



「?」



少し恥ずかしそうにモジモジして、可愛らしいキョーコがくるんと半回転して見せたのは腰の直ぐ下左のお尻辺りにあるうろこだった。

たった2枚だけ、前の桜色のウロコのままだった。


まるでハート型のようだった。



「なんでか、ここだけ残っちゃったのよね~」



「クスクス・・キョーコちゃんらしくて可愛いよ」



「・・本当?かわいい?」



「うん!可愛い」



「クオンがそう言うなら、これを私のチャームポイントにするわ!?」



無邪気で可愛い君と、このまま穏やかに暮らせる・・・。

この時は、そう思っていたんだ。




3へ