§ルートX 50
「・・・・あれが・・・ビーグルですか?」
「・・・・・その名前だとロックバンドでは売れないよね?京子ちゃんさっきも間違えていたけど・・・わざと?彼らは『VIE GHOUL』(ビーグール)だよ?」
今日の撮影は、今注目株の新人タレント京子と今週チャート初登場1位をさらったビーグールの新曲の収録だった。
(ビーグール?・・ビーグルとどう違うのかしら・・・・っていうか・・・・あの格好・・・)
キョーコは今目にしている光景が信じられなかった。
いや、今自分がいるこの場所・人が信じられなかった。
「あ・・あの・・・・不破・・尚に・・似てませんか?」
(っていうか、アイツのデビュー当時の衣装そのままそっくり真似てない!?)
無駄にセクシー、無駄に派手という衣装を5人グループの彼らが纏っているのをキョーコは唖然としながらスタッフにそう聞いた。
しかし返ってきた言葉に、キョーコは度肝を抜かれた。
「ええ?そうかな?・・・う~ん・・ビジュアル系ってみんなあんな感じなんでしょ?」
「・・・・・・・は?」
確かに、同じジャンルなら似通ってくるかもしれない。
でもこの者たちは違うと、キョーコは直感で悟った。
話し方も、冗談の交え方も・・・そして、新曲というものも。
全て、不破 尚を真似ていることがありありと見て取れた。
(っ・・・なにやってんのよっ!?ショータロー!!)
真似られただけで2位になったショータローの不甲斐なさに、キョーコはこめかみに青筋を立てた。
「ええ~!?コレがあの天使役の子!?」
「まぢで?すっげ・・CGの使い方半端ないな・・」
「いや、メイクでプチ整形なんだろ?」
「まあ・・・あの不和には、こんなのでお似合いなんじゃない?」
「「いえてる~」」
「!!?」
ブルブルと怒りに震えている間に収録を終えたらしいビーグールに、キョーコはいつの間にか取り囲まれていた。
5人ともタイプの違った顔立ちで、それぞれにファンを持ちそうだったがその中でもボーカルの男だけは先程から一言も話していないのにキョーコはゾクリとした。
「ね?レイノ君もそう思うよね?」
話しを振られたその男はレイノと呼ばれ、じっとキョーコを見つめた。
その視線は酷く冷たくキョーコはびくりと体を震わせ、恐る恐るレイノを見上げた。
「・・・・・・・・アイツのでなければ、視界に入ることもない女だな?」
「!!?」
「だよね~?」
「しかも・・・どんなに端くれでも芸能人ならもう少し衣装に気を使った方がいい。そんな格好だと芸能人というものに憧れがもてなくなる」
「!!!!・・・なん・・・ですって?」
(コレでも私の必死のコーディネートなのに!?)
「ま、なんにしても・・・不破にお似合い」
ぽむ・・・っと肩を叩かれたあと、キョーコを嘲笑いながら去っていくビーグールたちに多くの苛立ちを募らせたキョーコは収録が終わると直ぐに祥子に電話をした。
「あ・・祥子さん?ちょっとアイツと話があるんですが・・・今・・・どこですか?」
電話越しからでもキョーコが怒っているのが伝わってきた祥子は、驚きながら窓際にいる尚をチラリとみた。
『え?!キョーコちゃん!?あ・・尚は今・・・』
しかし、キョーコはしどろもどろとする祥子に苛立ちを向けるように話を続けた。
「今、すっごく嫌な思いしたんですよ・・・ビーグルとか何とかいう奴らに!」
『!!・・・・・・あの・・・今・・・TBMの・・・』
「直ぐ行きます!!」
ぶつっときれた電話に呆然としたのは祥子だった。
「・・・・誰?」
「え・・・あの・・・・キョーコちゃんからで・・・」
不機嫌というオーラのみを纏った尚に対して、祥子は突然切れた電話を手にしたまま今の会話を伝えた方がいいのか考えあぐねていた。
「あ・・・・尚・・今日は・・歌えそう?」
「・・・・・・・・・一応・・・」
ぶすっとした表情のままそっけなく言う尚に、祥子はもう声をかけることが出来なかった。
ビーグールが現れて、チャートをさらってから・・・いや、あの曲やビーグールのスタイル、インタビューの様子を目にしてから尚は日に日にやる気をなくしていった。
もう祥子には尚のやる気を起こさせる方法など思いつかなかった。
愛用していたギターを壊してあるのを見たのはそんな矢先だった。
それ以来、尚の様子を見ながら出来ることだけをさせる日々が続いていた。
(このままじゃ・・・尚・・・あなた本当に・・・・・)
あいつらに消されてしまう。
そんな考えが祥子の中に過ぎって、体を震わせて青ざめた。
『ゴンゴンゴンゴン!!!』
「!!?」
ぶるっと体を震わせた途端、控え室の扉が強く叩かれ震えたことを忘れるほどビクリと反応してしまった。
(ま・・まさか・・・・)
祥子が恐る恐る開けると、そこには先程電話をぶっちぎったキョーコが立っていた。
「ほ、本当に来たの!?」
「さっきまでここで撮影だったので」
普通に会話しているように見えるが、キョーコは怒りのオーラに包まれていた。
祥子は顔を引きつらせて、後ずさると尚にキョーコの姿がはっきりと確認できた。
「・・・・何しに来た」
「・・・何しに来た・・・ですってぇ?」
尚の一言でキョーコの周りをぐるぐるとしていた怒りのオーラが、一気に尚に襲い掛かった。
「!!?」
「ふっざけんじゃないわよ!?どーしてあんたに関わっただけで私が蔑まれなきゃなんないのよ!?」
がっ・・と怒りのオーラだけでなく、キョーコの両手が尚の両襟を掴んだ。
「!?・・・・アイツらと会ったのか・・・」
「会っただけじゃなく、私が必死に演じた天使役もアンタのせいでこけ落とされたわよ!?アンタなにしてんのよ!?私が追いかけても届かないようなスターになるんじゃなかったの!?なんでこんな真似だけ連中に1位の座を奪われてるのよ!?」
キョーコの放った一言に、祥子は一気に青ざめた。
「!キョーコちゃん!・・それはっ」
しかし祥子の制止の声は尚によってかき消された。
「うるせえ!!お前に何がわかるってんだよ!」
「わかるわよ!アンタのことだから真似されてもジタジタするのが格好悪いって静観決め込んでいたら、あっという間に1位奪われて内心焦ってんでしょう?なのに、それを表に出すのが嫌でふてくされてるだけじゃない!」
図星を指されたせいか、尚は舌打ちをしてふてくされてそっぽを向いた。
「っ・・・・・だから幼馴染なんか嫌になるんだよ!」
掴みかかっていたキョーコの手を振り払ってそう吐き捨てる尚に、キョーコは腕組みをしてさらに言葉を続けた。
「幼馴染だからじゃないわよ、アンタのこと今まで見てきたから知ってるだけでしょう?どうして以前の私のように見てきたファンを取られてももがかないの?だからただの格好付けで終わるのよ!」
「!っ・・・うるっ」
「あんな真似っこビーグルになんか負けんじゃないわよ!!アンタは私が倒す・・・・・・・なに・・・・・笑ってんのよ・・・・」
息巻くキョーコの言葉を受けた尚はしばらく制止した後、突然その場にしゃがみこんで肩を振るわせ始めた。
キョーコには直ぐにそれが笑いを堪えていることがわかり、さらに青筋を立てた。
「っ・・・だ・・・おまっ・・・ぶっほ!!!」
どうやら尚は今しがたキョーコが発した『ビーグル』に大うけの様子だった。
「キョーコちゃん・・凄いわ・・・こんなに笑う尚、始めてみた・・・お笑い番組見てても全然笑わないのに・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
尚が酷い笑い上戸だと知っているキョーコにはにわかに信じられないが、格好つけるために爆笑しないでいることは容易く想像できた。
「・・・そんなけ笑えればもう大丈夫ね?もうこれ以上失望させないでよ?アンタは私が倒すんだから!」
「っ・・・・・・っふ・・っはっ・・・・・おお・・・犬っころ相手にちょっと遊んでやっただけだ・・・直ぐにお前が追いつけない所に行ってやるよ・・・っぶはっ」
笑いで出た涙を拭いながら、そう無駄口を叩く尚にキョーコは大きなため息をついてこぼすとくるりと踵を返した。
「キョーコちゃん!?どこに・・」
「もう今日の仕事は終わったので帰ります」
「そ・・・そう・・・・あのっ・・・ありがとう!」
「・・・・礼を言われることなんかしてません・・・・ただ、倒そうと思っている相手があんな奴らに先に蹴落とされそうになっているのは見るに耐えられなかっただけですから・・・・」
不機嫌を貼り付けた表情でそういうキョーコに、祥子は苦笑しながらも再度礼を述べた。
「それでも・・・ありがとう・・・尚を引き上げてくれて・・私にはどうすることも出来なかったから・・・」
「・・・・そう・・ですか・・・余計なことしました・・・それじゃ・・・」
スタスタと尚の楽屋を出て行き、廊下を歩いて少し気分が落ち着くと感情のまま来てしまったことをキョーコは後悔した。
(それでも・・・なんだか許せなかったんだもの・・・・・あ!コーンに電話しなきゃ)
本当は『Dark Moon』のスタジオを後にする前に、TBMで撮影があることを伝えたかったのだが貴島に構われてそれは叶わなかったので今から帰ることを留守電にでも入れられたらとキョーコは慌てて鞄から携帯を取り出した。
『プルルルル・・・・ただいま、電話に出ることができません・・』
キョーコの予想通り、まだ蓮は撮影中のようで携帯には無機質な女性のアナウンスが流れた。
しばらく待って、ピーという合図にキョーコが口を開きかけたその時携帯を持っていた手が強く引かれた。
「キョーコ!」
「!?」
勢いよく掴まれた衝撃で、携帯はキョーコの手から外れて宙を舞い虚しい音を立てて冷たい廊下を転がっていった。
携帯を放り出す形になったキョーコは、呆然とした。
手を勢いよく掴んできたのはショータローで、今キョーコはそのショータローに抱きすくめられる形で廊下に立っていたからだった。
廊下に落ちた携帯からは、二回目のピー・・という音がして通話を勝手に終了していた。
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