なんてことない非日常 -34ページ目

なんてことない非日常

スキビ非公認二次創作サイトです。
駄文ばかりの辺境館ですが、広いお心で読んでいただける方歓迎しております。

§ルートX   51





 カツーンっと廊下に携帯が落ちた音を聴いても、キョーコは目を見開いて動けないでいた。

実際ショータローに抱きしめられてしまっているので、身動きが難しいことには違いなかったが自分から動くことができなかった。



(・・・・え?・・・)



突然懐かしい香りが体を包んで、幼少の頃一緒に遊んだ記憶が一気に甦ってきた。

楽しく『ショーちゃん』と言いながら遊んだ記憶が・・・。



「・・・・ショー・・・・」



キョーコが口を開きかけた瞬間、べりっとショータローの方から体が離された。



「・・・・・・ばっかじゃね?」



俯いた状態でキョーコの両腕を掴んで自分から引き離したショータローの表情が見えず、キョーコはまた首を捻った。



「え?・・」



「バカだって言ってんだよ!?お前は!」



急に顔を上げたショータローに面と向かってバカ呼ばわりされたキョーコは、一気に般若顔になった。



「はあ!?人が親切に・・」



「それが大きなお世話だって言ってんだよ!お前にはアイツがいるんだろ!?俺なんかにわざわざ助言しに来ることねーんだよ!」



ショータローの言葉に、キョーコははっとして息を呑んだ。



「・・・・俺だって・・・あんな奴らはなっから相手なんかしてねーよ・・・まあ、今回は油断してたけど直ぐにぶっ潰してまたお前の手の届かないスーパースターに返り咲くから今日のこと泣いて後悔するんだな?」



「はあ?!泣きません!」



「すぐビービー泣いてたくせに」



「それは昔のっ・・・あっこら!まだ話は・・」



「お前と違って俺は忙しいんだよ」



急に自分の楽屋の方に向かい始めたショータローの背に、キョーコはまだ文句を言いたかったのだがヒラヒラとショータローが手を振ったので憤り満載のまま口を閉じるしかなかった。



「キョーコ!」



むっとしながらショータローに文句を言うのをやめ、落ちた携帯を拾いにいきかけたキョーコにショータローは背を向けたまま名前を呼んだ。



「・・・ありがとよ」



呆然としているキョーコを残して、ショータローはスタスタと心配そうに眉根を寄せている祥子の元に戻ってきた。



「・・・祥子さんにも・・・心配かけた・・・ごめん」



「い・・いいのよ!さっ、もう直ぐ本番よ!?急いで!」



「わかってるって・・・」



少し涙ぐんでいるように見えた祥子の頭をポンポンと撫でると、尚は何事もなかったかのように収録先へと向かっていった。

その後姿にキョーコは小さくため息をついたあと、思わず口の端が上がりかけ慌てて手で直すと携帯を拾い上げ傷がついてないか確認してその場を離れたのだった。



「あらら・・・・なんか、不破のヤツ元気取り戻しちゃったようだけど?・・レイノ」



「・・・・・行くぞ、ミロク」



先程までの様子を廊下の死角部分で目撃していたビーグールのミロクは、壁を背にしていたレイノに声をかけた。

しかしレイノは特に表情を変えず、その場を離れたため肩をすくめた。



「まあ、付き合ってないのは本当みたいだけど・・・ちょうどいいオモチャになりそうじゃないか?彼女」



ミロクの言葉にレイノはしばし無表情だったが、進めていた足を止めてニイっと少し口の端を上げた。



「ちょうどいい?・・・・・クッ・・・しばらく退屈しなくて済みそうだな?・・・あのオモチャは」



「・・・・オマエって本当に愉しそうに顔を歪ませるのな?」



レイノの笑みにミロクも愉快そうに口の端を上げ、呟いた。



「手始めに・・・彼女を攫ってみるか?」



***************



そんなことを言われているとも知らないキョーコは、落ちた携帯電話に少し傷がついていたことにショックを受けつつ蓮の番号を呼び出そうとしていた。



『ピルルルルルル』



「わああ!?」



すると突然、着信音がけたたましくキョーコの手の中で鳴り響いた。



「あっ!・・コーン!?」



『キョーコちゃん!?大丈夫!?』



「・・・へ?」



着信の名前で急いで出たキョーコよりも、明らかに焦りの混じった声が受話器から飛び出してきた。



『さっき留守録聞いて・・そしたらガチャンって音がして、そのまま切れちゃったからキョーコちゃんに何かあったんじゃないかって・・・』



「っ・・・ご、ごめん!実は勢いあまって落としちゃって・・そしたら廊下をざーっと滑っていって・・そしたら拾い上げた頃にはもう切れてて・・・その・・・ごめんね?」



キョーコは咄嗟にショータローとのことを隠した。



(・・・だって・・・特に・・・そう!何も、何も無かったしっ・・・・・・)



以前、ショータローのことで怒りを露にした蓮の表情を思い浮かべてキョーコは少し青ざめながら隠し通すことを選んでしまった。



『・・・そうなんだ・・・・・気になる?』



「え!?」



『・・・傷・・・気になるんだったら新しいのに買い変えようか?・・・』



「ええ!?大丈夫!ほんのちょっぴりだし、こんな傷ぐらいで買い換えるなんてもったいないよ!?・・・・それに・・・・これは・・コーンに初めてプレゼントしてもらったものだし」



少し照れくさそうに聞こえてきたキョーコの声に、蓮は少し間を置いてクスリと笑った。



『そっか・・・・でも、もし故障とかしてたらすぐに変えようね?』



「クスクス・・うん、わかった・・・・あ、私もう今日の仕事は終わったんだ・・・コーンは?」



『そうなんだ・・俺はあと1時間ぐらいかかるかな?』



「!・・・今・・休憩中?」



『うん、そうだよ?・・・・大丈夫、俺もキョーコちゃんの声が聞きたかったから』



「ごめんね・・・」



『うん?なに?』



「ううん!・・その・・休憩中かどうかも聞かないで話しちゃって・・」



『だから、大丈夫・・・クスクス・・キョーコちゃん・・何かあった?』



「っ!・・・う・・ううん・・・なんにもないよ?じゃあ・・先に帰って夕飯作っているね?」



『・・・・・うん・・わかった・・・・じゃあ』



「じゃあ・・・頑張ってね?」



『うん』



プツンと切れた携帯をキョーコは一度ぎゅっと胸の前で握り締めると、急いで家路につくため駆け出した。



「蓮、キョーコちゃんなんだって?」



「・・・・・・・え?・・ああ、もう仕事が終わったらしくて・・・先に帰って夕食を作っておくって・・」


蓮の曖昧な答えにも気づかないで、社はにゅふっと口元を緩めた。


「いいなあ~愛妻が待っているって感じで~・・・これこそ雨降って地固まるってヤツだな?別れた別れないってついこの間まで大騒ぎだったくせに・・」



「・・・だから、あれは別れたわけじゃ・・・」



「はいはい、もう直ぐ出番だな?スタジオに戻るか?」



「・・・・はい・・いきましょう」



蓮は携帯電話を自分の鞄に押し込むと、社に続いて控え室を出た。

真っ直ぐ前を向いている頭の中では、先程キョーコからの留守録を聞いた記憶が甦っていた。


キョーコからの着信と留守録アリという表示に、いそいそと再生を押した蓮の耳には愛おしい彼女の声ではなく激しい機械の衝突音しか飛び込んでこなかったため酷く驚いた。


もう一度確認するため再生をして見た時、違和感が蓮の耳に残った。

それを確認するべく、今度は通話音量を最大にして注意深く音を聴いた。

すると、再生して直ぐに『ョーコ!』と聞いたことのある男の声が微かに入っていた。

そして直ぐにガシャン!っと激しい音が蓮の耳にダメージを与えたのだが、その音ではなく別のことで蓮はしばらく呆然となった。



(・・・今の声・・・・不破!?・・どう・・して?不破の声が・・・・)



蓮の背中にゾワリと嫌な寒気が走って、直ぐにキョーコの携帯に折り返した。

すると直ぐにキョーコが出てくれて、ひとまずは安心できた。


でも、キョーコからショータローとの話も周りにいる気配もなく会話を終了するしかなかった。



(・・・気のせい・・・だったのか?)



けれど一度出てきた黒い霧は簡単には消えず、胸の中で広がった。

それを無理に箱に押し込め、蓮はセットの中に足を入れると先にいた百瀬に笑顔を向けた。


役をつけて百瀬に対じすれば、蓮の時の思考を一時的に止める事はできた。

だから思ってしまった。


自分の中に沸き起こる黒い霧も、上手に箱にしまえたと。

その箱の蓋がとても不安定なものだとは、疑いもせずに。




52へ









《こちらのお話は、某所で開催中の噂の人魚フェア~への参加&提供物です。(危険物)


他の皆様の所にいるような、キラキラ素敵王子様蓮さんや、可愛い人魚姫キョコちゃんはいません。←どきっぱり。


それでもオッケイ!!という方は一緒に漂ってくださいませ~~~》



§漂う恋心は深海で   3





 ―君と過ごせる時間は永遠だと疑いもしなかった、あの頃の俺に戻れたらと今でも思うよ・・・―




*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆



それは本当に突然の出来事だった。



「クオン!!クオン!助けて!!!」



「!!?」



いつものんびりして、ニコニコしている君が泣きながら俺のところに飛び込んできた。


君の父親が病気を患い、酷く衰弱していっていることを俺に伝えるために。


その頃、深海にまでニンゲンという陸で生活している生物が落とす毒が降ってきていた。

この海峡の王である、彼女の父親はそれを食い止めようとして病にかかったらしい。



「クオン!お願い!!お父様を助けて!!」


「キョーコちゃん・・・でも・・・・」



「クオン、最近サンゴや海藻でお薬作っているんでしょう!?お願い!!お父様の病気を治して!!」



必死の懇願をするキョーコちゃんに、俺は半ば不安を抱えながらも薬を手渡した。



「これはサンゴの浄化作用を利用した薬・・・だけど大量に摂取すると逆効果だから一日一匙だよ?」



「わかった!ありがとう!!!」



その薬の効果は絶大だった。

今までいた薬師を俺に変更するほど・・・。


彼女の父親を助けた俺には、この海域の薬師の称号と一部海域を俺の研究場所が与えられこれまで以上に快適な生活が送れるようになっていた。


この時、俺の中で小さな野望が芽生え始めた。


もしかしたら・・・・俺にも彼女との未来があるのではないかという希望だった。


自分の種族も理解していた俺は、この海域の王の末娘であるキョーコちゃんとの未来は友達としてしかないと思っていた。

けれど・・このまま、俺の力が認められたら・・・・もしかしたら、あの光を俺の伴侶に出来るかもしれない。


そんな希望が首をもたげ始めた。


その矢先に起きた。


俺を深海の底の底に突き落とす出来事が・・・・・・。



*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆



それは小さなきっかけから始まった。


・・・いや、小さくはない。

彼女が卑劣な罠にはまって、酷く傷つけられたからだ。


原因は俺が地位を与えられ始めたことを妬んだ、以前俺をなじった者達が俺を傷つけるために作った罠だった。

キョーコは俺を助けるために、海藻とヒトデで作られた罠にかかりヒトデの毒で意識を失いかけていた。


その時俺の中で小さな爆発が起こった。

目の前が真っ赤に染まって、尾をふるって海底の砂を巻き上げた。


人魚族よりも強靭な尾を持っている俺は、あっという間に罠を作った者を砂煙で囲い込んだ。

それに驚き慌てふためく奴らを見ていた時、俺の頭の中で誰かが呟いた。



『ナンテ愚カナ奴ラダ・・・アンナ奴ラ、喰ッテシマエ』



心臓が重く鳴り響いて、俺の前で慌てる人魚族たちが小魚に見え始めた。


真っ赤に染まった視界の中、失神しかけている一匹に手を伸ばした時キョーコちゃんの声が聞こえた。



「クオンッ・・・・だめ・・よっ・・」



「!!キョーコちゃん!!直ぐに助けるから!」



一気に正気を取り直した俺は、まだ悪い動悸を繰り返す心臓を抑えながらも解毒剤を急いで作ってキョーコちゃんに与えた。


このことが王に伝わり、キョーコちゃんを罠にかけたものは海域を追われた。

そして俺は彼女の命を救った英雄になった。


俺は有頂天になっていた。

これで彼女を手にするのは俺しかいないって思った。


けれど・・・そうじゃなかった・・・・彼女にとっては。


英雄となった俺をキョーコちゃんは『クオン様』と呼ぶようになっていた。

恥ずかしいからと言っても、彼女は様を取ることを止めなかった。


彼女の中で、俺と一線を引きたいということがこの時はわからなかった。


俺が英雄になった影で、この海域を追われた者がいる。

それは俺を罠にかけようとして、キョーコちゃんに傷を負わせたものだった。

正直、いい気味だと思った。

今まで何かと邪険にしてきた相手だ。

いなくなって清々する。そう思った。


けれどそれに意を唱えたのは、キョーちゃん自身だった。



「お父様!私はクオン様が助けてくれたからもう平気!お願い、海域を追うのは止めて!?」



しかも彼女は、特に一人の人物を擁護した。



「ショーちゃんはこの件に関わっていないの!!ショーちゃんは何も知らなかったの!!」



彼女が口にしている者は、幼いころ俺を目の敵にしていたグループの大将だったヤツだ。

そいつを必死に庇いたてるキョーコちゃんの様子を見ているうちに、俺は違和感を感じ始めていた。


幼いころ俺を助ける時、必ずアイツの前に立ちはだかっていた。

もしかして・・・キョーコちゃんはアイツと接点を持つために俺を助けていたのではないか?

もしかして・・・俺を助けることで、アイツがやろうとしていることを未然に防いでいたのではないか?


頭の中がグルグルしてきて、気分が悪くなってきた俺の耳に信じられない言葉が飛び込んできた。



「その罠を彼らが張っている時、ショーちゃんは私と一緒にいたんだもん!!ずっと一緒にいたの!!」



頭を丸呑みされた気分になった。

目の前が歪んで、海底よりもずっとずっと奥底に沈んでいく感覚に俺は陥った。


彼女の必死の訴えにも関わらず、今まで素行の悪さが尾を引いて結局アイツはこの海域を追われた。

海域を追われた人魚たちがどんな運命を辿るか、皆知っている。

この海は生半可な優しさなどもちあわせていない。

一度群れから離れれば、あっという間に蛮族の餌食になるか。

強い海流に流されて当てもない旅を強いられ、朽ち果てていくかだ。

もし、万が一億が一・・・他の人魚族にあったとしても、人魚族は酷く閉鎖的な種族だ。

追われた者を受け入れることなどしないだろう。


それでも・・・俺は億が一を恐れた。


彼女が二度と、未来永劫・・アイツと会わないよう俺は画策した。




4へ