なんてことない非日常 -33ページ目

なんてことない非日常

スキビ非公認二次創作サイトです。
駄文ばかりの辺境館ですが、広いお心で読んでいただける方歓迎しております。

§漂う恋心は深海で    5






 「・・・・うそよ・・・・そんな・・・・」



俺の告白を聞いた彼女は、青ざめたまま頭をフルフルと小さく振るった。



「クオン様はそんなことしない!」



俺からの言葉を信じないキョーコちゃんに、俺は困ったように笑い返した。



「そうだね・・・君に見せていた『クオン様』は優しすぎたんだ・・・」



俺の言葉に彼女は涙を湛えた瞳を大きく見開いた。

凄くきれいな水晶のように、ゆらゆらと光をまとって俺を見つめていた。

その瞳に、暗い声に支配された俺はどう映っているのだろうか・・・



「やさし・・すぎた?・・・」



「そう・・・己の内に秘めた蛮族の血が沸き立つまで、俺は君をただ遠くで想い見つめるだけで満足していたんだ」



「・・・・・・・」



黙ったまま見つめるキョーコちゃんに、スイっと近づくと彼女は明らかに怯えた態度で肩を震わせた。

そのことが思ったよりも俺の心を抉ったが、予想できていたことだと自分に言い聞かせ彼女の尾ひれを捕らえていた鎖を外した。



「クオン・・・様・・・」



「・・・・逃げようとは・・思わないだろ?・・逃げたくても、逃げられない・・・俺がまたどんな手を使って君を捕らえるかわからないから・・・」



鎖を外されほっとしている彼女に、わざとそう言うと彼女は呪文をかけられたようにその場に凍りついた。



「クス・・・素直なキョーコちゃんが好きだよ?・・・さっ、こっちに来て・・君の部屋は以前から用意してあるんだ」



またその言葉に彼女は体を強張らせていく。

俺の言葉一つ一つに反応し、見えない鎖で絡められていくキョーコちゃんはこの深海に見合った瞳の色になっていった。



「・・・・・ニンゲンになる薬を君に渡した後の話をまだしていなかったね?」



彼女ように設えていた部屋に、すっかり静かになってしまったキョーコちゃんを落ち着かせるとユラユラと揺れる髪を梳いて続きを話すことにした。



「ここからは君も知っていることが大半だよ・・・君から預かった声のお陰で、君の口からアイツに想いを伝えることは出来ない・・そしてアイツはここに居た時の記憶は皆無・・・そう・・皆無だった・・はずなんだ・・・」



俺の沈んだ様子に、キョーコちゃんは首を傾げた。



「・・・・・・・・はず・・・って?」



「っ・・・」



俺は髪を梳いていた手を引っ込めた。



「クオン様・・・まだ・・何か隠してるの!?」



「・・・・・・・・アイツは・・・断片的にだけど・・・記憶を残していたんだ」



必死に表情を読み取ろうとする彼女から、俺は初めて顔を背けた。

罪悪感なんて無い。

はずなのに・・・キョーコちゃんの瞳をまともに見て話す事が出来なくなっていた。



「クオン様!?」



彼女の問い詰めるような呼びかけに、俺は固く目を瞑った。



「・・・・・・・記憶が・・・残っていた・・・・君が・・・・罠にかかって死の淵を彷徨っている姿を・・・記憶していたんだ・・・・・ただ・・・鮮明ではなかった・・君の姿を・・・ニンゲンになった君と照らし合わせる事が出来なかった・・・」



俺がそこまで言うと、彼女は何かに気づいた。

昔から勘のいい子だったからね・・・。



「・・・・キョーコちゃんの考えている通りだよ?・・キョーコちゃんが海に戻るきっかけとなった・・アイツの婚約者・・・・彼女は君がこの海にいたときの姿とアイツが勘違いをしたことだったんだ・・・」



「・・・・・・・・・・・・・」



「君は・・・本当は泡になることなんてなかったんだ・・・・勘違いとはいえ君の想いを踏みにじったアイツの心臓を銀のナイフで刺し、その血を浴びればその薬にかけられた魔力も消えたのに・・・・それに」



何も言わないキョーコちゃんに俺は、言い訳のように話を続けた。



「・・・・・まって・・・」



そんな俺の言葉を、彼女は静かに止めた。



「まって・・・クオン・・様・・・・この薬には、薬の恩恵を受けるものの一番大切なものが必要だったはず・・・でしょう?・・・・今、私は泡にもならずにどうして人魚の姿に戻っていられるの?・・代償だった声もそのままで・・・・」



・・・・やはり・・彼女は本当に勘のいい子だ。



「・・・・・それにはね?もう一つ・・・呪いがかけてあったんだ・・・・」




「・・のろい?」



首を傾げるキョーコちゃんを俺は真っ直ぐ見つめた。

彼女は少し顔を強張らせた。

それが幼かった君を初めて会った時の表情に似ていて、俺は思わず笑みを漏らした。


・・・いや・・・やっとこのことが言えるんだ・・・そんな、安心感もあったのかもしれない・・・・・



「そう・・・君が・・・海に飛び込み、泡となるほんの一瞬・・・ほんのかすめる程度でいい・・・俺のことを思い出してくれたら・・・君は元の姿に戻って、ここに来る・・・・・・・・そう呪いをかけたんだ」



「・・・・・・・・・そ・・・れは・・・もしかして・・・・・・その・・呪いの・・・代償を・・あなたが払ったという・・・こと?」



彼女の声が震えている。

それさえも嬉しい。

君がアイツではなく、俺を心配してくれていると自惚れる事が出来るから。

知らずのうちに頬が緩んで、笑みが深くなっていく。



「・・・・・・・・・代償はね?」



青ざめるキョーコちゃんの前で、俺は笑顔で両手を広げた。



「俺、自身なんだ」



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§ルートX    52





 ガチャンっと扉の開く音につい肩が揺れるキョーコは、着けていたエプロンを外して廊下を歩いてくる蓮の前に飛び出した。



「お帰りなさい!コーン!!」



勤めて明るく、勤めて何事もなかったかのように。

キョーコは胸の中に沸き起こる不安を抱えて、蓮の前に立った。


そんなキョーコに驚いた蓮だったが、直ぐにクスリと笑みをこぼし頷いた。



「ただいま、キョーコちゃん」



いつものように返事をする蓮に、キョーコはほっと胸を撫で下ろした。



「どうだったの?撮影」



「・・・・うん・・・順調に今日の分は撮り終ったよ」



「そっか・・・・・」



フツリ・・と会話の糸が切れて、キョーコは慌てて次の糸を探した。



「あ・・・あの!・・・食事・・出来てるけど・・・」



「ああ・・・うん・・・そうだな・・・お風呂からにするよ」



「うん・・わかった・・・」



社が居れば、新婚か!?と突っ込んでくれそうなのだが生憎彼はいないため何ともぎこちない新婚会話は笑顔を貼り付けただけの二人の間に虚しく落ちて消え去った。


微妙な空気を変えたい一心で、風呂場に行きかけていた蓮は笑いながら振り返った。



「あ~・・キョーコちゃんも一緒に入る?・・なんて・・・」



いつもだったら全力で逃げ出すのを捕まえて一緒に入るのだが、蓮の予想を外してキョーコは一瞬真っ赤になって目を泳がせたもののコクンと小さく頷いてしまった。



「え?・・・・」



その意味をなぜか理解できなくて、蓮はうっかり聞き返してしまった。



「・・・・入る・・・・一緒に・・・」



真っ赤だからキョーコに羞恥心が残っていることは見て取れる。

けれどいつもは物凄い速さで巣に戻る野生のリスなのに、今日は震えながらも蓮の傍を離れずむしろ積極的に傍に来ようとしていた。


きっと不破と何かあったに違いない。


そうは思っても、傍に来ようと必死になってくれるキョーコに思わず蓮は緩む口元を押さえた。



(・・・・まったく・・・どうしてくれよう・・・)



☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*



チャポン・・・と湯が波打つ音に蓮は、ため息をついた。



「・・・・そろそろ目を開けてもいいでしょうか?」



「ダメ!!待って!!」



広くシックな浴室。

先に入らされた蓮は、浴槽に身を沈めてからずっと目を瞑らされている。



(・・・・全部見てるのに・・・いつも・・・)



一緒に入ると言ったまでは良かったのだが、そこまでがキョーコの限界だったらしい。

服を脱がせようとすると、叫んで隅に縮こまり先に入るように言ってきた。



(キョーコちゃんらしいけど・・・)



そして自分が体を洗っている間は背を向けろと、入るときは目を瞑れと涙目で訴えられれば従うしかなかった。



(・・・反則だよな・・・惚れた弱み?)



湯が波打ち、キョーコが入ってきたことがわかると蓮はゆっくりと目を開けた。



「・・・・・キョーコちゃん・・・それはマナー違反」



キョーコの細い身体にぐるっぐると巻きついているタオルを指差して、蓮は不満を爆発させた。



「だ、だって!こんな明るい所で何も恥を晒させなくても!・・きゃああああ!!ダメダメ!!」



真っ赤になって必死に言い訳する姿ににっこりと笑顔のまま、無言でタオルの裾をぎゅううっと引っ張って前で合わさっているバランスを崩すことにした蓮にキョーコは必死に抵抗した。


無駄な抵抗だったのは、火を見るより明らかだった。



「コーンのいじわるううう!!」



湯船の中で両腕で体を庇い小さくなるキョーコを、簡単に引き寄せ抱きしめた。



「これなら見えない」



「っ・・・・・で・・でも・・・」



「うん・・・シタクなっちゃうね?」



「っ!・・あ、あがります!!」



「だめ」



いつもの駄々っ子のようだが、少し雰囲気の違う蓮の行動にキョーコは困り果てた。



「~~~っ・・・コ・・コーン・・・あのね?・・・今日・・・実は・・・」



キョーコが言い難そうに口を開くと、一瞬蓮の体が揺れた。

しかしキョーコはそのことに気づかず、どう説明すればいいのか必死に頭を働かせていた。



「え・・っと・・・あのね?」



なんとか説明しようと言葉を探すキョーコをさえぎったのは、蓮だった。


「ごめん・・・キョーコちゃん・・・俺・・・百瀬さんと付き合うことになった」



混乱気味の頭の中に、さらなる爆弾を投下されてキョーコの頭は真っ白になった。



「・・・・・・・・・・・・へ?」



ぱしゃ・・・静かになった浴室に湯船が撥ねたのは、キョーコが蓮の腕の中から身を起こしたからだ。

先程まで必死に隠そうとした体を今は隠す余裕など無くなっていた。



「・・も・・もせ・・さんって・・・美月役の・・・?」



目を見開いているキョーコに、蓮はコクリと頷いた。

蓮の肩に置かれているキョーコの手が小刻みに震え始めた。



「・・・・じゃ・・・あ・・・・わたし・・・は?」



温かい湯船に入っているはずなのに、指の先が急激に冷えていくのを感じキョーコは握りこぶしを作っていた。



(・・・また・・・捨てられちゃうの?・・・)



その考えにサーッと頭から血の気が引いて、キョーコの体が冷たくなろうとした。



「・・・ごめんね・・・キョーコちゃん・・・こんなことになっちゃって・・・」



蓮の言葉が酷く遠くに聞こえてくる。



「・・でも・・どうしようもなかったんだ・・・・・・キョーコちゃんには本当にすまないと思っているけど・・・」



蓮の話にキョーコの瞳から涙が湧き上がってきた。



「・・・や・・だ・・・・・・・やだっ!私っわかれ~~っ」



「そうだよね・・・・・例えドラマの間、スタジオ内だけでもキョーコちゃんの目の前で恋人のフリをするなんて・・・キョーコちゃん・・イヤだよね?」



「やだよ!別れたくない!・・・・・・・・・・・・・へ?・・・・・・・フリ?」



「うん、恋人のフリ」



溢れ出しそうだった涙は一気に止まった。



「っ・・なんでそんな言い方!!」



「別れを切り出されると思った?・・・俺はアイツとは違うよ?・・・(・・・いや?・・・アル部分は似てるか?)」



「だからって!!」



ばっしゃっと水しぶきと共にキョーコの握りこぶしが、蓮の厚い胸板を叩いた。

それがまだ震えていることに気づいて、心の中で詫びながら蓮はその手を包み込んだ。



「ごめん・・・ちょっと意地悪したくなったんだ・・・・キョーコちゃんが俺に隠し事してるみたいだから・・・」



「!!!・・・・・・気づいて・・・たの?」



「・・・・留守電・・・・アイツの声が微かに入っていた・・・」



蓮にそう言われてキョーコの喉がひゅうっと鳴った。



「あ・・・あのね!?ついっカッとなったというか・・・頭に血が上ったっていうか・・・だから思わず暴走しちゃって・・だけど・・勢いのままアイツに会いに行ってハッパをかけちゃうなんて・・」



「・・・・・会いに・・・行った?」



キョーコが焦り交じりで矢継ぎ早に言った言葉に、蓮は驚きを隠せなかった。

キョーコが自ら会いに行ったということを予想などしていなかったからだ。



「・・・・知って・・・たんじゃ?」


蓮の反応に、キョーコは瞬時に自分が余計なことを言ってしまったことを悟った。


「・・・・・・なんで?会いに?」



ワントーン下がった蓮の声になんだか湯船が急に水風呂になってしまったように感じたキョーコは、凍えながら事の経緯を包み隠さず必死に話した。



「・・・ふ~~~ん?」



「・・・と・・いうわけ・・・でして・・・」



なぜか正座して、真っ裸のままこんな話をしなければいけなくなった自分の行動を恨みつつもキョーコは超・超・超不機嫌になった蓮の顔色を伺った。

すると蓮は憮然としたまま口を開いた。



「やめた」



「・・へ?」



「以前怖がらせちゃったから遠慮してたけど・・・もう、優しくするのやめた」



「へ!?」



「キョーコちゃんはどうやら俺にイジメテ欲しいみたいだからね?」



「え!!?」



浴槽の中で後ずさっても、それは逃げたことにはならずあっさりと蓮に捕まった。



「泣いたらいいよ?キョーコちゃん・・・声が枯れるまでね?」



ニッコリと笑った蓮に、キョーコは声にならない叫びを上げたのは言うまでもなかったのだった。




゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆


ぐったりとベッドに横たわるキョーコの目元を、舌先で舐めうっすら滲んでいた涙を取った蓮にうわ言の様にキョーコの非難が耳に優しく入ってくる。



「っん・・・も・・・むりぃ・・・」



それだけ言うと、また深い眠りに攫われたキョーコの髪を優しく撫で素肌を隠すように真っ白なブランケットをかけ蓮は寝室をそっと出た。


すっかり冷めてしまった夕食を、のんびりラップをかけ冷蔵庫にしまう。

明日きっとキョーコが朝食にリメイクするだろうと考えて小言を言われることも予想でき、蓮は思わず笑みをもらした。


クスクスと一人笑いながら、グラスにロックアイスを数個放り込むとウィスキーをゆっくりと注ぎいれた。


カラカラ鳴るグラス片手にベランダへと出る。

夜風はまだひんやりとしているが、気だるい熱が残った体にはちょうど良かった。



(・・・・・・キョーコちゃんから・・・会いに・・・)



バルコニーに背を預け、氷が回るグラスを眺める。


今回は尚が一方的に会いに来たわけではなく、キョーコがわざわざ会いに行ったことに蓮は想像以上にダメージを受けた。



(キョーコちゃんの中で、アイツは今・・どんな存在になっているんだ?)



ただの幼馴染に戻ったのか、まだ倒すべき憎い相手と思っているのか・・・それとも・・・昔の感情が再び・・・・


蓮はその考えに背筋を寒くした。



(・・・・イヤだ・・・俺の方がイヤだ・・君と別れるなんて・・・・君に・・逃げられるなんて・・・)



氷で薄まったウィスキーを一気に煽った。

アルコールで満ちた息を吐き出して、おもむろにグラスを持っていない方の手を開きじっと見つめた。

先程までキョーコの肌を堪能していた掌。


一度覚えてしまった甘い感情と、手に馴染む肌の感覚。

それを失うかもしれないと想像しただけで、胸の奥がジリジリと焦げ付いてくる。

蓮は力なくストンとその場にうずくまった。



(・・・今さら・・・お前が持って行くなんて許さない・・・例え、俺と同じように彼女に固執していても・・・絶対渡したりしない!)



ギリ・・・っと握り締めたグラスにヒビが入ったのにも気づかず、蓮は自分の脇にそのグラスを置いて星のない曇った夜空を見上げた。

グラスのヒビからはゆっくりと、溶けた氷が流れ出しベランダに染みを広げていくのだった。




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§漂う恋心は深海で    4





 ―浅はかな俺を嘲笑うように、運命の歯車は軋みながらも動きを止める事は無かったんだ・・・―




*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆



 

アイツらが海域を追われた事を知った彼女は、酷く塞ぎこむ毎日を送っていた。


俺が珍しいサンゴを持っていっても、小さく笑うだけで直ぐに心はアイツの方へと向かってしまっていた。

でも俺は彼女の傷が癒えるのを待った。

傍にいなくなれば、忘れてしまうだろうと・・・・。


実際、彼女の周りには俺以外にも心配をする仲間や家族が大勢いて、日に日にキョーコちゃんは明るさを取り戻していった。


ようやく平和な日々を取り戻せたのは、それから半年近く経ってのことだった。



「クオン様!いる?」



お転婆だった彼女にしては、少し控えめな来訪。

それでも以前のように笑顔を見せてくれるようになったことに、俺は安堵していた。



「どうしたの?何だか嬉しそうだね?」



「あのね?・・・うふふ」



可愛らしくモジモジとするキョーコちゃんは、17歳の誕生日のお祝いに彼女の姉たちと海面に行くことになったと教えてくれた。



「海面に!?・・・でも・・ニンゲンが・・・」



「うん、それはね?とっても気をつけなきゃいけなくて・・・でも、お姉さまたちも一緒だし・・ニンゲンも以前のように毒を落とすことがなくなってきて、一番上の姉さまが去年ね?ニンゲンが空に光の花を咲かせていたらしいの!サンゴの産卵よりも綺麗だったって!」



「・・・・・そっか・・・じゃあ、それを見に行くの?」



「うん!」



「楽しんでおいで?・・・帰ってきたら、伝えたいことがあるから・・・ここに来てくれる?」



「え?・・・うん!わかったわ!・・じゃあ、またね?クオン様!」



元気よく泳いでいくキョーコちゃんの後姿を見送って、腰下のハートに目を細めた俺は彼女に渡すために見つけた大きな阿古屋貝をそっと開いた。


その中には、特別に大きな真珠が光り輝いていた。


これを彼女に渡して、共に傍で過ごして欲しいという気持ちでいっぱいだった俺は帰ってきた彼女にどういう風に伝えるかを模索することで気もそぞろになっていた。


まさか、ここで運命というものの恐ろしさを目の当たりにするとは思わずに・・・・・。



「クオン!・・様!!聞いて!!」



「あ、お帰り・・どうしたの?そんなに急いで・・・」



少し興奮した様子で飛び込んできたキョーコちゃんに驚いていると、彼女は衝撃の言葉を口にした。



「聞いて!?さっきね?!海面に出たらね!?いたの!!」



「?・・・あの・・光の花?」



「そ、それはもちろん綺麗だったけど・・そうじゃなくて・・・・・ショーちゃんにそっくりなニンゲンがっ!!」



ドクリと俺の心臓が嫌な音を立てた。


マサカ・・・ソンナ・・・・



「たくさんのニンゲンと笑って歌っていたの!歌の上手だったショーちゃんにそっくりで、『ショウ』って呼ばれていたのも似てるの!」



嬉々として話をする彼女の声が、徐々に遠くに聞こえてくる。


最後にアイツにあった日のことが俺の脳裏に甦ってくる。


密かに海域を出ようとしたアイツに、俺は手向けとして薬を渡した。

蛮族に襲われたらこの薬を呑めば助かると・・・嘘をついて、ニンゲンになる薬を渡した。


アイツは愚かにも俺の薬を信用してか、最後の賭けとしてか・・・生き残ることを選んで薬を口にしたらしい。

まさか・・・・今頃になって



「・・・・・キョーコちゃん・・・まさか・・また・・・見に行くなんてこと・・・しないよね?・・今日が特別だったんだろう?」



「え・・・・・・あ・・・・うん・・・・そう・・・なんだけど・・・・実は・・足を踏み外して海に落ちた彼を助けて顔を見られてしまったの・・・で、でも!彼は私が人魚だとは気づいてないのっ・・少し話しただけ・・・・・お願い!!クオン様!このことは内緒にして!?もう会わないようにするからっ・・そっと岩陰からその姿を見るだけでいいのっ」



両手を合わせて俺に懇願する姿に、俺は頭の中が真っ黒になっていくのを感じた。



(・・・マタ・・・彼女ハ、オマエヲ裏切ル気ダゾ?)



もう・・頭の中で響く声に俺が逆らうすべは盛っていなかった。



「・・・・・・・・キョーコちゃんは・・・彼を見ているだけで満足なの?」



「・・・え?」



「・・・・ニンゲンは俺たちよりもずっと儚い命だって知ってる?」



「え!?」



「・・・君が見つめているうちに・・彼に想う人が現れて、結婚して子供を儲けて老いて死ぬ・・・それもたった50年ほどで・・・それを君は岩陰からただ見つめて過ごすの?」



「そ・・・・それは・・・・・・」



俯いて悲しそうにしているキョーコちゃん・・・俺のかわいいキョーコちゃん・・・



「・・・・・俺・・・話があるって言ったよね?」



「え・・・!?・・・う・・ん・・・」



俺のことを想ってくれない・・・カワイイキョーコちゃん・・・・



「君に誕生日プレゼントを用意していたんだ・・・」



「え!?本当!?あ、ありがとう!!」



「うん・・・でも・・・それはあげないよ」



「・・・え?」



「それよりも・・・ずっといいモノをあげる」



「ずっと・・・・いいモノ?」



アイツばかりを見つめる・・・・

オレノ、カワイイ・・・キョーコチャン・・・・



「・・・・・・うん・・・・・・それは・・・これだよ?」


「・・そ・・・それは?」


ウン・・・カワイイヨ・・・ソノ・・・オビエタメ・・・



「これはね?・・・ニンゲンになれる薬・・・だよ?」



オレノ、キョーコチャン・・・・アイシテル・・・・






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